[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【イキマネコラムvol.49】子育て支援策を方向転換した「資生堂ショック」とその後

[公開日] [最終更新日]2021/08/26

『イキマネ』とは、女性が「イキイキ」「活きる」マネジメントのこと。
組織の中で女性本来の良さが発揮できるマネジメントを目指すこの手法について、ハピレボプロデューサーであり、株式会社オフィスat 専務取締役の阿部博美氏による連載記事を配信します。
(※)このコラムでは、イクボスを推進するプロジェクトメンバーによる寄稿記事を配信しています(記事一覧)。

 




前号でお伝えした女性同士のトラブルは、子育てする側と支える側との対立でした。同じ話は資生堂でも起きていて、その規模の大きさから世間の注目を集めています。資生堂のとった対応策はどんな企業にも通じる話ですので先進事例としてぜひ参考にしてください。

資生堂は女性社員の割合が8割超、美容部員1万人の99%は女性です。ですから、女性の働き方に関する制度は先進的に様々導入されいます。手厚い育休や時短制度は有難いことですが、利用が促進されると今度は売り上げが下がっていく現象が起きました。その額なんと1000億円。

美容部員の多くが結婚・出産・育児真っただ中の女性たちです。店頭では常に誰かが休んでいる状態になり、頭数がいつも不足していることが起きてしまったのです。特に土日や夕方のかき入れどきに出勤できる人がいないことが、売り上げを大きく下げた原因でした。

そこで2014年に資生堂が打ち出したのが、これまで子育て女性に与えていた過保護策をやめて、育児中でも遅番勤務や土日のシフトに入ってもらう、ノルマも平等に与えるというものでした。

「女性が働きやすい職場づくり」の最先端企業として走り続けて来た資生堂が、ここにきて厳しい態度に転じたとTwitterで大炎上する事態となり、これが「資生堂ショック」として一気に広まった事件でした。

背景にはこんなことがありました。

育児中で短時間勤務の美容部員は午後5時ごろ帰宅する。客でごった返す夕方から夜など繁忙時間は、若手やベテランが肩代わりしてきた。いつしか時短勤務者は1200人に増え、「このままでは回らない」と通常勤務の社員から悲鳴が上がり始めた。充実したはずの制度が逆に士気後退につながる――。

ただ「”資生堂ショック”=”悪”」とだけ捉えられたわけでもありません。むしろ制度を前向きに考える美容部員もいました。もっとキャリアを積みたいと思っても、逆に制度が邪魔をして積極的になれずにいた女性たちです。「土日は家族が対応できるので出勤しやすい」という声もあるほどです。

「資生堂の女性活躍推進は、働きやすさを確保する段階を既に終え、女性を戦力化させるステージに入っている。」(AERA)

結局、育児女性の98%が働き方を変えたそうです。「リストラだ」との反発も出ましたが、退職者は30人にとどまっています。そしてこれ以降の売り上げは大きく伸びています(もちろんインバウンドバブルもあましたが)から、この施策は成功したと言っていいのではないでしょうか。

【イキマネコラムvol.49】子育て支援策を方向転換した「資生堂ショック」とその後
 

企業は利益追求が当然です。会社にぶら下がるだけの社員を庇護する余裕はありません。ただ、働き方については個人によって意識も環境も違いますから、その多様性を受け入れつつそれぞれに合った形で相互理解できることが一番です。

最善策は、一人ひとりとしっかり向き合い、使える制度を選択してお互いに心地いい着地点をみつけることだと思います。十把一絡げでの対応や「お得だから使っておこう」という既得権益意識を持たせてしまう風土自体が問題になるのだと思います。

さらに視野を広げて考えたいのは、この女性たちのパートナーが働く企業の側のことです。資生堂のように、女性を多く抱える企業ばかりに課題解決を押し付けていいのか、ということも、社会全体で考えることではないでしょうか。

余談ですが、以前にも資生堂の話題を出していました。

🔗参照【イキマネコラムvol.11】売上の数値目標を立てない方が売上が上がる!?

 

👉今回のPOINT

1. 女性が活躍するための配慮は必要だが遠慮は不要
2. 働き方への要望は個人で様々違っている
3. 保護のための制度が「既得権益」になっていないか

 

 

このコラムでは、組織の中で起きがちなミスコミュニケーションを軸に、様々なポイントやコツをお伝えします。ぜひ違いを知って、新しい視点を楽しんでみてください。

そして、女性たちが存分に能力を発揮でき頼もしい戦力となることで、力強い組織となるためのサポートとなればと思います。

 




<阿部博美・プロフィール>

阿部博美
株式会社オフィスat 専務取締役/ハピレボプロデューサー。産業カウンセラー、キャリアコンサルタント。

自称「女ゴコロ翻訳家」。男女の本能からくる意識や行動の違いを、様々な具体的場面に落とし込み、お互いの理解を深め相乗効果を上げることを目指す。企業活動の中では、女性客の本音を翻訳しマーケティング設計に繋げ、組織の中では、お互いの強みを活かし合える風土づくりに繋げている。
現在、女性目線を専門とするマーケティング会社を経営。商品やサービスについてはもちろん、近年は採用ブランディングや女性活躍推進の相談を多く受けている。それらの中で、女性社員や外部の主婦など、女性チームをマネジメントする場も多い。新卒から15年間携わった人材派遣業界での女性マネジメントや、派遣先企業と派遣スタッフとの間での翻訳経験が非常に役立っている。