イクボス・ロールモデルインタビュー第6回は株式会社日立ソリューションズ 金融システム事業部第一本部本部長、佐藤善和さんが登場。
現在は約360名の部下(女性が1割)を管掌。今年度より、本部長特命事項としてダイバーシティ推進組織を本部で組成して、具体的な本部活動に着手しはじめたとのこと。従業員との関係などについて、部下であるご夫婦、浅野さん、大村さんにも同席いただき、お話を伺った。
<佐藤善和さんプロフィール>
54歳。1978年に入社。2005年主任技師(課長職)、2008年担当部長(部長職)、2011年本部長職となる。奥様と長男(高1)、長女(中2)の4人家族。ご自身は、会社制度の育休・褒章休暇はこれまで取得経験なしとのことですが、お子さんの学校行事などへは、仕事より優先で出席していたとのこと。
自分自身は、家庭を顧みない働き方だった
佐藤:最初は銀行のシステム構築を担当していました。ITシステムへの投資が活発な時代で、システムを作っても、作っても追いつかない状況。20~30代のときの働き方は、本当にハードでしたね。朝8時半頃に出社して、夜中の12時をまわって帰ることも珍しくありませんでした。出会いもなかなかありませんでしたから(笑)、社内結婚して、妻は仕事を辞めて専業主婦になりました。妻が専業主婦になったから、なおさら「子育てはよろしく」っていう意識の中で、生きてきてしまいました。子どもの学校行事には行きましたが、日々の子どもへの対応はできませんでした。それに、自分だけ早く帰るのは、メンバーに迷惑をかけてしまうと思っていました。
安藤:お子さんが生まれたときはどうでしたか? 立ち会い出産はされましたか?
佐藤:立ち会い出産は希望していました。ちゃんと休みも取らせてもらいましたよ。でも結局帝王切開になったので、出産のときには立ち会えませんでしたが。
安藤:金融ソリューション本部の大村さんは1歳のお子さんがいるんですよね。どうですか?
大村:里帰り出産ということもあり、予定日前後で夫は1週間の休みを取り、病院には2泊してくれました。しばらく実家で過ごしてから、こちらに戻りました。
安藤:夫の浅野さんも、金融ソリューション本部なのですね。お休みを取りたいと会社に言うのは大変じゃなかったですか?
浅野:「妻が出産の時に1週間休みたい」と上司に伝えたら、妻のことを知っていることもあって、躊躇なく「どうぞ!」って感じでしたね。
大村:妊娠4カ月のころに会社で飲み会があったので、そのときにみんなに報告しました。早い時期に伝えておいたのがよかったかもしれません。みんなびっくりしながらも、「おめでとう!」って言ってくれてうれしかった。「ぜひ、出産後は復帰して欲しい」と言ってくれました。そんな感じで、言い出しにくいというようなことは、全くありませんでした。一緒に働く先輩にも2人お子さんがいて、子どものことも話しやすい雰囲気なんです。
浅野:2人は部は同じですが所属が違うので、いつみんなに妊娠のことを伝えようかって相談していました。飲み会に結婚式にも来てくれたメンバーが集まることになり、そこで発表しました。みんな「おめでとう!」って、言ってくれました。育休は1週間取りましたが、もともと長期に取るという意識はなかったですね。でも、2人目の子どもができたら、もっと長期間の育休を取りたいと思っています。
制度よりも、取りやすい雰囲気やコミュニケーションが大事
安藤:御社は独自の育児支援制度などがあるんですか?佐藤:とりたてて独自の制度があるわけではありません。それよりも、「育休をちゃんと取れるか」というのは、取る方の気持ちに抵抗感があるかもしれませんね。結婚して退社してしまう人も、少なくはありません。会社組織として、育休をちゃんと取って、復職してもらうということを進めていく必要があると思います。
安藤:大村さんは、育休をどのくらい取りましたか?
大村:育休は1年間取りました。復帰の3カ月前に育休取得中の人たちの懇談会がありました。年に2回実施されていて、いろんな部署の人が30人くらい集まります。育休から復帰した先輩方のパネルディスカッションがあったり、「職場復帰前には上司と面談するといいですよ」などのアドバイスをいただいたりしました。
今は時短勤務をしています。打ち合わせも日中早い時間に行ってくださるなど、配慮いただいています。プロジェクトにも入っていますが、夜遅くまで働かなくてはならない仕事ではないので助かります。職場復帰歓迎会も、子連れで行ける店で平日の業務終了後に開いてくださいました。
安藤:佐藤さんは、上司として心がけていることなどありますか?
佐藤:「困ったことがあったら、言ってね」と伝えています。会社としては、育休などの制度を持っているけれど、現場の管理は上司の仕事ですから、そこは上司が仕事の調整をして、部下が育休を取りやすくすればいいわけです。
奥さんの体調が悪いとか、子どもがけがをしたとか、急に休まなくてはならないこともありますが、すべてスケジューラーに書いてメンバーと共有する、わかっている予定は早く宣言しておくことが大切だと思います。たとえば、休むことが決まってなくても「妻の体調が悪いので、休むことがあるかも」っていうことでもいいわけです。共有しておくことで、ほかのメンバーがその人が休むことになったときのフォローや体制をつくる準備ができます。
部下にも家庭を大事にして欲しい。自分自身も家族の時間を取り戻し中
安藤:佐藤さんが、そのように考えるようになったきっかけは何ですか?佐藤:かつての自分が仕事優先で、家庭を顧みていなかったという罪悪感もありますね(笑)。だから部下には、家庭も大事にしてもらっています。家庭も顧みず長時間労働になって、体をこわして辞めることになるのは、会社にとっても本意ではありません。
「年休を取れ」と人に言うだけじゃ、部下が取りにくかったりしますから、まずは自分からやっています。夕方もほぼ定時退社しています。私の子どもは高校1年生と中学2年生ですが、今まで関わってなかった分を取り戻している感じでしょうか。現在では、残業をすればいいと言う考えは変わってきていると思います。プロジェクトにもよりますが、早めに帰る人も増えてきていますね。
安藤:飲み会とかはどうですか?
佐藤:部下の顔を見て、飲みに行きたい、話したいような人がいれば、金曜日とかに声を掛けています(笑)。平日はもちろん、「どうしても仕事をここまで片づけて」っていうことはあると思いますが、帰りが遅くなりがちの人には、「もう帰った方がいいんじゃない」とか「お休み取ったら」とか、声をかけるようにしています。早く帰ったり、休みにくい人には、周りからの後押しも大切ですね。
浅野:新人で入社したときに、佐藤さんが上司でした。結婚式に来てもらったり、育休取得の相談もさせてもらいました。
大村:ママ友だちが勤務地が変わって家から遠くなったときに、「早く帰った方が良いよ」って声をかけてくださったり。上司がそのような対応をしてくれると、本当に働きやすいです。
浅野:家に帰って、子どもが眠った夜に、夫婦で仕事の話をすることもありますね。
安藤:ワークライフバランスを実践して、朝4時とか5時から早起きして、ひと仕事しているパパも多くいますよ。
浅野:子育てしていると時間的な制約が増えていくけれど、その中でいかに数字を出すかっていうのが課題ですね。
佐藤:上司としても、自分の右腕左腕をつくるのが大事と言っています。「自分しかできない」ではなく、いざとなったら「頼む」と言えること。それができることが、結果、組織として強くなっていくのだと思います。大きな会社ですから、まだまだ部署によっては、「他の人に頼むなんて、甘えたこと言っているんじゃない」という考え方のところもあると思いますが。でも、「ダイバーシティ推進本部長として、引っ張っていって欲しい」と言われていると思っていますので、わからない部分もありますがどんどん発信していきたいと思っています。
メンバーの状況を把握することで、働きやすい環境を作れる
安藤:イクボスとして、どんなことに力を入れていますか?佐藤:メンバーとのコミュニケーションから始めています。たとえばいつも始業に遅れてくる男性がいて、話を聞いてみたら「共働きで自分が子どもを保育園に送っていて、始業ぎりぎりか遅れてしまうことがある」と言うことがわかったり。それぞれの事情を知れば、配慮したり、メンバー間で調整することができます。部下に働きやすい環境を提供するのも本部長(上司)の仕事だと思っています。
安藤:育児中もそうですが、家族の介護をしなくてはならない人が、今後増えてきますからね。育児よりも、介護の方が大変です。上司がちゃんと状況を把握して理解していることはとても大事だと思います。
佐藤:「環境がいいから働き続けられる」ではなく、それが「当たり前になる」ことが大切だと思います。
大村:実は4年前くらいに仕事を辞めて、実家の福岡に帰ろうと思った時期があったんですよ。でも、そのときに「このプロジェクトだけ、頑張ってみろ」って、上司に言われて。そのプロジェクトで、夫と出会いました(笑)。
<イラスト/東京新聞>
安藤:佐藤さん、「イクボス10カ条」に当てはめると、いかがですか?
佐藤:制度を変えたりしているわけではありませんが、6割くらいできていると思います。
安藤:浅野さん、佐藤ボスの印象はどうですか?
浅野:新人の時から見守ってもらってるので、頼りになるボスです。無理矢理ではなく、コミュニケーションを取りたそうな人を見つけて、声をかけてくれたり、話を聞いてくれる。それが自然体でできる方です。見習うところがたくさんあります。
佐藤:最近は、ちょっとうざいって言われることもありますけどね(笑)。
安藤:それだけ、メンバーのことを見ているってことですね。ありがとうございました!
聞き手:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
筆:高祖常子