[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第9回】古志野純子さん(長岡塗装店 常務取締役)

[公開日] [最終更新日]2017/02/20


①
今回のイクボス・インタビューは、株式会社長岡塗装店 常務取締役の古志野純子さんが登場。

長岡塗装店は、従業員数28名の島根県松江市の塗装店。家・住宅・建物の外壁塗装・塗り替え・リフォーム・改修・補修などを行う会社です。2008年の第2回「ワーク・ライフ・バランス大賞」をはじめ、数々の賞を受賞。女性のイクボスとして、働きやすい環境づくりをしたり、若手社員の定着と技能伝承を推進する理由を伺いました。

<古志野純子さんプロフィール>
1983年入社、1997年常務取締役任。優秀な社員が定着し能力を発揮することが、顧客の信頼を得ることにつながっていくという経営方針のもと、「技能伝承の鍵は”若者の定着”」をモットーに社員全員がいきいき働くことのできる職場環境づくりを進めた。その結果、2006年ファミリー・フレンドリー企業島根労働局長賞、2008年「子どもと家族を応援する日本」内閣総理大臣表彰、2008年 第2回「ワーク・ライフ・バランス大賞」優秀賞受賞(社会経済生産性本部)。8年間退職者ゼロ。同級生の夫と二人家族。子供はいない。

②

入っては辞めるのが、当たり前の会社だった

安藤:長岡塗装店さんの歴史は長いんですか?

古志野:創業75年です。塗装業のみでスタートし、今ではリフォームなども行っていますが、建設業ですからいわゆる3K、「きつい」「汚い」「危険」な仕事です。以前は会社に入っても、「こんな仕事だったのか」と、辞めていく人がいるのは当たり前な感じでした。夫も同じ会社で働いていましたが、18年前に「このままじゃ会社がダメになる」「若い人が辞めないように、何とかしないと」と思ったんです。

地域的に求人が多いわけではないので、人材募集を出せばすぐに人は集まります。でも、働きながら、自分の一生を楽しんで続けていってもらうにはどうしたらいいのかと、考えました。私自身の一生も含めてです。それで思い当たったのが、「会社に発生するモデルケースに対して、その人のやり方に合わせられるように変えていけばいいじゃないか」と思ったんです。

そんな流れの中で2002年「子の看護休暇」を取り入れました。子ども1人に年間5日間の特別休暇が付与されます。子どもが4人いれば20日間の休暇が付与されることになります。

安藤:それは国の制度とは別に作った会社独自のものですか?

古志野:基本は国の「子の看護休暇」と同じです。が、国の場合は、子が1人の場合は1年に5日、2人以上の場合は1年に10日と定められているので、子どもが3人以上と人数が多くても、その人数に掛け算した日数を休めるのは、会社独自だと思います。

あとは、2002年当初から申請書類を簡単に記入しやすいものにしたり、30分単位で取れるようにしたことですね。

安藤:オリジナルの書式を作ったり、30分単位で看護休暇を取れるというのは、会社側の手間がかかりませんか?

制度を使いやすくするために、独自の視点を取り入れる

古志野:制度を使ってもらうためには、面倒な手続きが少ない方がいいですから。30分単位でも、エクセルなどで管理すれば全く問題ありません。

子どもは急に病気になりますから、前もって書くことは基本的に難しい。だから、書類も、後から出せばOKです。子どもを朝病院に連れて行って30分だけ遅れるということもありますよね。1日分の子の看護休暇を30分に分割して複数日に分けて使えるということです。子どもを病児保育に連れて行くために、朝30分、夕方30分を分けて使うこともできます。その場合は合計で1日1時間分の「子の看護休暇」を使ったことになります。

保育園や病児保育も、保育料の1/3を補助しています。半年に1度計算して、振り込んでいます。子育て中の従業員は、ちょっとした臨時収入でうれしいと思いますよ。育児中の従業員は、ここ10年以上退職者がいません。

安藤:それはいいですね。よく講演などで「大企業だからできるんでしょ」なんて話も出ますが、中小企業だからできることもありますね。

③
古志野:働きっぷりのいい、かっこいい社員になって欲しいんですよ。お話ししたような制度は、会社の利益を出すための投資だと思っています。小さい会社だからこそ、効果も見えやすいですね。

働きやすさの噂も広まっているのか、従業員募集を出すと多くの応募がありますし、工業高専や大学にも求人を出せるようになりました。女性でも現場監督の仕事をできるような人が入社してくれます。

安藤:帰宅時間はいかがですか?

古志野:現場の仕事は朝早いので、夜はあまり飲みにもいかないで、みんな家に早く帰るのが当たり前ですね。もちろん必要なら残業するのもいいんですが。残業しがちな社員には、声をかけたり、残業時間や休日出勤の日数、顔色なども注意してみるようにしています。

父が社長の時には、仕事があれば長時間働くのが当たり前という感じでしたが、若い人にその感覚は通用しませんから。

育児中の人だけではなく、高齢従業員への働き方の配慮も

安藤:そのあたりは、女性ならではの共感脳を活かしている感じですね。
ところで、若い人は働きやすそうですが、そうすると年輩の従業員の風当たりが強くなったりしないですか?

古志野:確かにありましたね。若い人には休み取らせたり、早く帰らせたり。でも自分たちは働きづめって。1998年に再雇用制度を導入し65歳まで働けることにしたんですよ。これは、熟年の職人さんたちに、若い人への技術の伝承と教育、そして応援をして欲しいという気持ちからです。

あと、社会保険労務士の方と相談し、社員が58歳になると、年金支給額に影響する59歳の給料の仕組みについて三社面談を重ね、本人に納得がいくまで話し合います。68歳になった男性や60歳になった女性は労働日数を月15日にするという仕組みも個々の希望に対応し作りました。元気な若者は土日、ちゃんと休みたいんですよ。でも高齢の職人さんは土日祝日関係なく「出てもいいよ」という人もいますから。現場の采配をしている担当者と、人員配置を調整します。

ほかにも、2002年から本人が払う家族の介護費用も証明書を提出してもらって、1/3を会社で負担することにしています。島根県は日本一の高齢県なので、介護問題はこれからたくさん出てくると思います。

安藤:年輩の方々は変わりましたか?

古志野:最初は強面でしたけど(笑)、最近はみんなニコニコしてやさしくなっちゃって。58歳から安心して柔軟な働き方ができるのはいいねって、年輩の方々にも好評です。

安藤:女性従業員と古志野さんの関係はどうですか? 企業によっては、女性の敵は女性なんていうところもあるみたいだけど。

古志野:今はすごく、信頼してくれていますね。「女性社員のしゃべり方とか雰囲気が、私と似てる」ってよく言われます(笑)。今働いている女性社員が入ったときには、すでにいろいろな制度がありましたから。基本の就業時刻は8時から17時30分なんですが、時短を使ったり、必要なら時間をずらしたりして働いてもらっています。

④
安藤:「お局さん」と呼ばれるような女性の方と、若い人との確執はないですか?

古志野:過去に全くなかったということはありませんが。でも、若いママたちを自分が支えていると思っても、本人の体調が悪くなって休んだときに、若いママたちが支えてくれたりして、それで気づいていくというか。そんな関係を重ねながら、コミュニケーションを取って、心を開いていく方が働きやすいですからね。

従業員とのコミュニケーションから、情報が集まる

安藤:ボトムアップと、トップダウンの両方がうまく働いている感じがしますね。声を拾って上に上げる、トップも理解して制度や社風を改善する。この間の部分を古志野さんが担っているんですね。

古志野:普段から、従業員のみなさんの声を聞くようにしています。本当に何か変える必要があると思えば、社長に掛け合います。社内をウロウロして必要以上に声をかけているかもしれませんね(笑)。普段のやりとりから、いろいろな情報が入ってきますから、それが私自身の経験値にもなっています。

安藤:社内の母性と父性のバランスがいいんでしょうね。根性論や精神論主義とかじゃなく、ヒューマニティがチームワークを良くして、それが会社にも良い方向に働いているんでしょうね。イクボス10カ条は、いかがですか?


古志野:ほぼできていると思います。先日、会議は立ってやろうと提案したんですが、それは却下になりましたけれど。でも、会議では必ず、結論を出すようにしています。

安藤:今まで会社は不況だから、ワーク・ライフ・バランスどころじゃないと言ってきた。でも過去最高益を出した今こそ、改革できるチャンスですよね。いろいろなことを背負って生きている人のほうが気づきがあるし、同僚に優しくなれるし、会社にとってもプラスになるんじゃないかな。長岡塗装店さんのように多様な働き方を認め、従業員を大事にできる会社が今後伸びていくと思います。ありがとうございました!

⑤
聞き手:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
筆:高祖常子