[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第10回】下地寛也さん(コクヨファーニチャー株式会社 ソリューション企画部 部長)

[公開日] [最終更新日]2018/03/07


イクボス・ロールモデルインタビュー第10回は、コクヨファーニチャー株式会社の下地寛也さんが登場。独身時代は残業が当たり前。異動により、初めてママ社員を部下にもったご自身がワーク・ライフ・バランスに目覚めたきっかけは何か?東京・港区にあるコクヨ・品川オフィスでお話を伺った。


〈下地寛也さんプロフィール〉
1992年に入社し、設計部でインテリアデザインを担当。97年に結婚。2008年よりソリューション企画部へ。妻、長女(中3)、次女(中2)、三女(小5)、四女(年中)の6人家族。

独身時代は残業が当たり前

安藤:独身の頃は、どんな働き方でしたか?

下地:92年に入社して97年に結婚するまで約5年の独身時代は、設計の部署でインテリアデザインの仕事に携わっていました。会社ではフレックスタイム制度が既にあり、出社は朝10時とか10時半とかでしたが、夜は毎日9~10時まで仕事していました。徹夜も結構ありましたね。

安藤:若かったし、夜遅くまで残業するのは当たり前という感覚?

下地:そうですね。今でこそ、「ワーク・ライフ・バランス」の意義が少しは理解できるようになりましたけど、当時はその発想には大反対の人間でした。というのも、設計など何かを“つくる”仕事って、「私生活をある程度投げうってでも、とことんまでいいものを作りたい」という気持ちが根底にありますから。

安藤:クリエイティブ職の方の、「かけた時間だけ成果が出る」という考え方ですね。

下地:かけた時間だけ本当に成果が出るかはわからないけど、「完成する直前まであがきたい」という気持ちがあるんですよ。

安藤:なるほど。

下地:今は、企業向けのセミナーを企画したり新しいビジネスを考えたりなど、どちらかというと研究職に近い仕事内容の部署で、比較的時間をコントロールできる仕事が多いため、そのようなジレンマはあまりありません。でも、設計の部署にいたら、どのように折り合いをつけながら仕事をしていくかというのは悩むところですね。


安藤:独身時代、家族も時間の制約もあまりない状況の中で、日本の若い人達はついつい残業体質になってしまいますよね。でも、そのあと結婚して子どもができたりすると、女性社員はもちろん男性社員もそうは言っていられなくなる。そんな中で出てきたのが「ワーク・ライフ・バランス」だと思います。

忙しい時はとことんまで仕事するけど、ずっと忙しいままと自分の健康も損なうし、家族からのプレッシャーも大きくなる。そこで、バランスをとりながら、めりはりをつけて働こうと。でも、そうすることで、かえってアンバランスになる事も確かにありますよね。ところで、娘さんが4人いらっしゃるんですよね。何歳ですか? 奥様はお仕事なさっているんですか?

下地:上から中3、中2、小5で、いちばん下が4歳です。妻は仕事はしていません。妻も出産前は会社勤めをしていて帰宅も遅く、家の事が何もできない状態でした。当時、夫婦で「このままでいいのだろうか」みたいな話をした時に、妻のほうは「これから先もずっと働き続ける気持ちというわけではない」という事だったので、「それならこのタイミングで見切りをつけたら?」って。ちょうどそんな時に、最初の子を授かったんです。

安藤:その頃は、どんな風に育児参加されていましたか?

下地:子どもが一人の時は、子育てはあまりしていなかったのですが、年子で二人目ができたあたりから、妻が結構つらそうにし始めまして。妻が下の子の面倒にかかりっきりになるのを見て、「あ、そうか。上の子の面倒もみてあげないといけないんだ」と思い、主に上の子の世話をするようになりました。

安藤:育休はとりましたか?

下地:その頃はまだ設計の部署にいて仕事優先だったので、とりませんでした。

ママ社員を部下に持ち、マネジメントを考える

安藤:働き方の意識が変わってきたのはいつ頃から?

下地:5、6年前、今の部署に異動してきた頃ですね。うちの部署に、優秀なママ社員がいたんです。昔設計をやっていた女性で、その時と同じようにお客さんと丸一日フルで対応するような仕事は難しいけど、ある程度時間の融通がきく企画の仕事だったらまかせたいという感じの、できる社員でした。

こういう社員を初めて部下に持って、「母親業も大変そうだけど、彼女が会社を辞めたら部署としてのダメージが大きい。どうしたらいいだろう」と思うようになったのが始まりですね。

安藤:どんなマネジメントをしたのですか?

下地:週に1度、スタッフ全員でミーティングをするのですが、仕事の報告はもちろん、子どもを含めた家族についても、それぞれがどういう状況にあるかを全員で確認しあおうと声をかけました。

現在部下は13人いるのですが、常に全員の状況を把握しながらも、問題のない部下には仕事を全面的に任せ、手助けが必要そうな部下は時間をかけてみるようにしています。


安藤:時間をかけて何をみているのですか?

下地:仕事って、常々先の予測をしておかないといけないので、その部下の2週間くらい先の予定までチェックし、なにかあったら他の人間がすぐにリカバリーできるような体制を整えるようにしています。大事なのは、部下の管理をきっちりするというよりは、ママ社員が、「子どもが突然熱を出して仕事を休まなくてはいけなくなっても何とかなる」と思えるような職場の雰囲気を常に醸し出しておくことだと思っています。

安藤:その考えは、部下に浸透していると思いますか?

下地:どうでしょうね。でも、僕自身が家庭の事情で会社を休む時は、なるべくくわしく部下に理由を言うようにしています。今、妻が中学校のPTA会長をしているのですが、PTAでの地域活動が忙しくて、下の子の小学校や幼稚園の行事と重なってしまうことがあるんです。このような時は、僕が妻に代わって育児を受け持つので、「明日は下の子の幼稚園の送り迎えがあるので休みます」と、具体的に伝えています。僕から率先してこのように伝えることで、他の人も、家庭の事を気軽にいえるようになればと思っています。

安藤:いいですね。あと、部下のプライベートはどれくらい把握できていますか?子どもの年齢や人数、旦那がイクメンかどうか、共働きかどうかなど。

下地:大体わかっていると思います。先日、男性社員で1カ月の育休を申請してきた部下がいましたが、「働き方をどうするか」というのはうちの部署の課題でもありましたので、彼の体験談を共有し、1人の社員が育休をとった時に部署ではどんな事が起こるのかをきちんと把握する事ができました。彼も育休を取って、以前よりも元気になって職場に戻ってきたようで、そんな姿を目にするのもうれしいです。そういう意味でも、部下のプライベートを把握することは、とても大事だと思います。

あと、昔はわからなかったけれど、例えば、社長に報告する資料をつくるにしても、「パワーポイントとかを使いこなして時間をかけ、体裁だけはとりあえず整える」よりは、「簡単なメモ書きでいいから内容がつまったものをつくる」のがベターだと思うようになりました。無駄に手を掛けすぎず、不要な業務の手を抜くツボのようなものを、部下にどうやって教えていくかというのも、イクボスとしてはすごく大事ですよね。

安藤:確かにそうですよね。

下地:試行錯誤しながらも、うちの部署は新しい働き方を打ち出して、今のところうまくいっていると思います。ただ、会社全体として見たときに、うちの部署のような働き方ができるかどうかは、上司の考え方によるところが大きいと思うんですよ。上司が古いタイプの部署の現場は、まずは上司をどう変えるかが課題になってくるわけですし、その辺が難しい。僕も、たまたまこの部署に来て、ワーク・ライフ・バランスを考える立場になったということは大きいと思います。人間、一度は何かに困らないと、前に進めないですから。

安藤:世の中の流れ的には、職場での女性の活躍を推進し、女性の管理職を増やしていこうという風潮があるいっぽうで、若い男性社員の8割は、将来子どもができたら育児をやりたい、そのうちの半分が、育休をとりたいっていっているんです。

このような中で、下地さんのような考え方のイクボスが組織の中にいる事が、とても必要になってくると思うんですよ。社員が50代くらいになると、育児だけでなく介護の問題も出てくるしね。下地さんが管理職としてこれまでやってきた事を組織の中で横展開し、今のうちにそういう環境をつくっておくのは大事ですね。

新しい価値観を身につけ、イクボス“移行期”

下地:そうですね。ただ、人間って、特に男性は、仕事なら仕事って、ひとつの事に集中していたほうがラクですよね。僕自身も、週末は家族と過ごす時間を大切にしているつもりですが、日曜日の夕方が終わると、正直、「あ~週末が終わった~。明日から大人と話せる」ってほっとする気持ちもあります。社員よりも、うちにいる4歳児の相手のほうがずっと理不尽で大変ですから(笑)。

安藤:よくわかります。同じように、金曜日になると「家で育児をやらなきゃいけない週末がやってくる」って落ち込んでいる男性が、たくさんいますからね。そこを超えるには、まさに、会社だけではなくて、地域や、社会貢献などで、会社以外に自分の居場所を作ることが必要だと思います。週末の家族とのコミュニケーションも、実は仕事のヒントになったり、PTA活動に参加することで、さまざまな多様性が見えてきたり、子どもの教育問題にも関心が出てくる。ワークライフ“バランス”というより、ワークライフ“シナジー”(相乗効果)という発想ですね。

下地:そうですね。人間って、今までと全く違う新しい価値観を受け入れる時、その価値観を頭で考えてなじませる期間と、少しずつ身について、本当に理解し動けるようになる期間があると思うんです。そういう点から考えると、僕は今、新しい価値観が身についている途中という感じがします。“イクボス移行期の終盤”といったところでしょうか。

安藤:なるほど。

下地:次女が軟式テニスをやっていて、応援に行くのに車で送ったり、週末子どものために時間を使うのは楽しいなって、もちろん思うんですよ。でも、金曜日になっても月曜日までにしなきゃいけない仕事がいくつか残っていると、週末子どもと過ごす時間を楽しみながらも仕事の事がどこかにひっかかっている。その案配が難しいですね。そういう意味からいっても僕は、“イクボス移行期の終盤”なんです。

安藤:いやいや、「移行期の終盤」といえる謙虚さが素晴らしいと思います。それすらも気づかないボスがいっぱいいますから。

(イラスト:東京新聞)

会議は絶対に時間通りに終わらせる

安藤:「イクボス10カ条」には、どのくらい当てはまりますか?

下地:①と②はできていると思います。③の「知識」は、社内制度を知っているかというものですが、これについては印象に残るエピソードがあります。産休から戻ってきた優秀なママ社員が、時短勤務を希望していて、これまでの8割の時間で勤務するか、平日に1日休むかどちらかを選べるということで、そのどちらをとるか悩んでいたんです。でも、よくよく調べると、両方とれる事が判明しまして……。彼女は仕事を持ちながらも「子育てにできるだけ時間をあてたい」という気持ちがあり、産休明けの働き方によっては会社を辞める事も選択肢のひとつに入れていたようなのですが、結果的に両方とって、会社に残ってくれたんです。こうしたちょっとの事が、部下が仕事を継続できるかどうかの選択が変わってくるんだと実感しました。

安藤:そうですね。ママ社員にとって、「1時間早く帰れる」とか「平日に休める」というのは大きいですからね。

下地:④の「組織浸透」は、うちの部署自体が、社内で率先して行っていかないといけない部署だと思っています。ただ、最初にも少しお話しましたが、クリエイターとして「お客さんによりいいものを届けたい」という気持ちが強い結果、ワーク・ライフ・バランスよりも仕事のほうを優先する社員はいるわけです。その社員にどうアプローチしていくかという方法論は、自分の中にまだないですね。

安藤:なるほど。正直な意見ですね。

下地:⑤、⑥もできていると思います。ただ、社内のネットワークは、もう少し使いやすくする余地があると思います。⑦の「時間捻出」については、会議の削減はしていませんが、「会議は絶対に時間通りに終わらせよう」という意識で常日ごろからやっています。

安藤:⑨の「有限実行」はどうですか? やさしいだけのイクボスではなく、「しっかり結果を出そう」という意識があるかどうかという事です。

下地:うちは、営業のようにお金を稼ぐ部署ではないのですが、やはりこれからの世の中は、エクスペリエンスデザインとかデザインシンキングとか、いわゆる経験やつながりからクリエイティブする時代になっていくと思うんですね。

社内の人間だけで考えると限りがありますので、個々が自由に動いて外とつながりながら仕事をしていくことを推奨しているのですが、メンバーもそれを実践しているので、個々の能力は高まってきていると思います。
ただ、外部の優秀なフリーランスの人の価値観にふれることによって、大企業の力学のようなものを窮屈に感じる社員もいるのではないか、そこで会社での仕事が物足りなくなり、今よりもさらにいい仕事を与えないと辞めていってしまうかもしれない、そんな危惧を感じることもあります。

安藤:これはよく、他のボスからも出ますね。

下地:⑩の「隗より始めよ」は、「でき始めてきている」という感じです。

安藤:イクボス移行中といいながらも、大体全部できていますね。

下地:こういう風に10カ条にまとまっているといいですね。会社でいろいろ考えるきっかけになります。

安藤:会社でこれをばらまいている人もいますよ。でも、ご覧のとおり、これらの事って、マネージャーだったら当たり前の事なんですよね。できないのはその人の能力ではなくて、やはり会社の伝統的な働き方であったり、慣習のようなものが原因になってくると思うんです。「ワーク・ライフ・バランス」の考え方を、自分も含めてどう取り入れていくのか、まずはそれを考えないと。

「ワーク・ライフ・バランス?そうはいっても無理だよね、この会社は」って多くの社員が思ってしまったら、そこで終わってしまいます。そこを、さっきおっしゃっていたデザインシンキング的な発想で、まずは自分が率先してやってみて、自分のライフデザインを会社にもうまく浸透していくような発想ができるボスを増やしていきたいんです。

下地:そうですね。こういう事を考えるのって、正直、面倒くさい部分もありますが、「面倒くさいことを考えることが楽しいんだよ」って思ってもらえればいいんですよね。

安藤:そうすると、組織も進化するんです。僕は、ママやパパ向けのセミナーも良く開催しているのですが、ママ自身が「うちの旦那はイクメンなんてとんでもありません。いつも夜遅くまで帰ってきませんから」なんていって、旦那をあきらめていたりするわけですよ。そう言っているだけだと、自分がいつまでたっても楽にならないですよね。

広い意味で、自分をさらけ出すことが大切

安藤:最後に、独身の人や、結婚しているけどまだ子どもがいない人へのアドバイスがあればお願いします。

下地:組織においては、ワーク・ライフ・バランスとか育児のことだけじゃなくて、もっと広い意味で自分をさらけ出すことが必要と思います。僕も、「正直、マネジメントの事はよくわからない」などといいながら、部下といっしょに考えるモードでじっくり話すと、人によって違う価値観に気づき、「じゃあそこをどうしよう」みたいなディスカッションになっていく。「こうするべき」とか「こうならないといけない」ではなく、「どうなんだろう」って、皆で考えられるようになるといいのかなと思いますね。


安藤:なるほどね。

下地:「休んでいいですか?」ではなくて、「今こういう状況があるんですけど、どうでしょう」って投げかければ、上司も考えてくれる。そういう事を会社の上の人とフランクに話す事ができる環境であれば、見えてくるものも多いのではないでしょうか。

安藤:やはり、大切なのは環境づくりや伝え方ですよね。ぜひ、御社でもイクボスを広めていただければと思います。今日はありがとうございました。


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