『イキマネ』とは、女性が「イキイキ」「活きる」マネジメントのこと。
組織の中で女性本来の良さが発揮できるマネジメントを目指すこの手法について、ハピレボプロデューサーであり、株式会社オフィスat 専務取締役の阿部博美氏による連載記事を配信します。
(※)このコラムでは、イクボスを推進するプロジェクトメンバーによる寄稿記事を配信しています(記事一覧)。
前回のコラムで、無意識のバイアスが女性たちの成長機会を奪っているという話をしました。
実際にこの罪は大変重く、せっかくの能力を発揮できずに、本人もそのことに全く気付いていないということがよくあります。
こうなると、言われたことをこなす作業を邁進するばかりで、自分で考えることをしなくなります。常にサポート的な仕事をすることになり、それ以上のことを求めることすら忘れてしまいます。「もっと自ら動いてくれよ」というのはムリな話で、それは彼女たちのせいではなくマネジメントの問題です。
もちろん、そうなってしまっても打ち手はあります。とにかく成功体験を積ませることです。
ある企業の事例です。
優秀な成績で入社したはずの大卒女性たちのモチベーションが低く、もっと能力を発揮して欲しいのに困っているというご相談でした。
そこで導入したのが「女性戦力化プロジェクト」です。まずは彼女たちに成功体験を積んでもらうことを目的としました。
このプロジェクトの特徴は、職種関係なく編成した女性チームを作り、全員でマーケティングに取り組んでもらうというものです。
なぜマーケティングかと言うと、営業施策に直結するため会社として取り組みやすいこと、また、女性の視点が新しいアイディアを生み出すので、これまでの施策と比較評価されにくいこと、上手くいけばそのまま使える施策となり一石二鳥なことなどです。
この企業では、プロジェクトで生み出した案を、次年度の施策として検討のテーブルに乗せるという約束を取り付け、約1年をかけて全員で必死に取り組みました。
経理や管理のメンバーもいましたので、マーケティングのいろはを学ぶところから始め、自社の課題を抽出し、自分たちの強みを発見し、最終的に3つの案をまとめ上げました。
最後に役員がズラリと並ぶ前でプレゼンテーションしたのですが、その時の彼女たちの姿が忘れられません。「私たち『なんか』の話を役員が真剣に聞いてくれるなんて感激した!」と涙したのです。
それくらい彼女たちは自分のことを「たいしたことのない人間」と考えていました。自分たちが会社にインパクトを与えられる存在だなど、考えたこともなかったのです。
結局、提案した案は3案とも正式に採用されました。
ひとつでも採用されたら合格と考えていたので、これは思ってもみない快挙でした。彼女たちの大きな自信になったことは言うまでもありません。
このプロジェクトで得た彼女たちの経験は、提案が成功したことだけではありません。
- 自分たちで会議を回す(これまで実施側になったことはない)
- 自分たちで決断する(決めるのはいつも上司)
- アイディアを「企画」という形に落とし込む(思いつきでは通らない)
- 実現可能な手法と予算配分まで責任を持つ(経営者視点を学ぶ)
- プレゼンテーションをする(公式な場では初体験)
様々な経験を積んだ彼女たちは、初めて「自分も会社に対して発言権がある」ということを実感したようでした。会社からの期待にもやっと気付いたのです。これをきっかけに、自信をつけた女性たちが発言するようになったのは言うまでもありません。
いかがでしょうか?
ロールモデルの少ない女性たちは、「あたりまえ」と思えるようなことすら吸収できていません。男性と同じように成長してくれというのはマネジメント側の怠慢です。常にバイアスがかかっていないかを意識して経験を積ませなければ、男性との差が開いてしまうのは当然です。
さて、これには後日談があります。
女性たちの新しいアイディアは、年配の男性からみると突拍子がないものに見えたり、遊んでいるように見えたりするようですが、そんな案が採用されるようになると、これまで黙っていた若い男性たちも活発に発言するようになったのです。
澱んでいた空気が動き出し、多様性の入り口となった事例でした。
👉今回のPOINT
- 男女のバイアスをかけていないか常に意識する
- 経験させることを意識的に行う
- 会社が期待していることを「言葉にて伝える」
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このコラムでは、組織の中で起きがちなミスコミュニケーションを軸に、様々なポイントやコツをお伝えします。ぜひ違いを知って、新しい視点を楽しんでみてください。
そして、女性たちが存分に能力を発揮でき頼もしい戦力となることで、力強い組織となるためのサポートとなればと思います。
<阿部博美・プロフィール>
株式会社オフィスat 専務取締役/ハピレボプロデューサー。産業カウンセラー、キャリアコンサルタント。
自称「女ゴコロ翻訳家」。男女の本能からくる意識や行動の違いを、様々な具体的場面に落とし込み、お互いの理解を深め相乗効果を上げることを目指す。企業活動の中では、女性客の本音を翻訳しマーケティング設計に繋げ、組織の中では、お互いの強みを活かし合える風土づくりに繋げている。
現在、女性目線を専門とするマーケティング会社を経営。商品やサービスについてはもちろん、近年は採用ブランディングや女性活躍推進の相談を多く受けている。それらの中で、女性社員や外部の主婦など、女性チームをマネジメントする場も多い。新卒から15年間携わった人材派遣業界での女性マネジメントや、派遣先企業と派遣スタッフとの間での翻訳経験が非常に役立っている。