[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第6回】佐竹 隆さん(株式会社メディ・ウェブ 代表取締役社長)

[公開日] [最終更新日]2018/03/07


イクボス・ロールモデルインタビュー第6回は、株式会社メディ・ウェブの佐竹 隆さんが登場。時代の先端を行くITベンチャーの社長は、ダイバーシティな人材をどう活かしているのか?新しい時代の、新しいボスの感性とビジョンについて、東京・虎の門にある本社でお話をうかがった。


<佐竹隆さんプロフィール>
富士総合研究所(現・みずほ情報総研)からソフトバンク、フリーランスを経て2007年に株式会社メディ・ウェブの設立に参画。病医院や医療関連企業向けの業務ウェブサービスを提供。患者と病医院、病医院内、病医院と企業の関係性に注力した、クラウド型診療支援サービス3Bees(スリービーズ)は、現在2000以上のクリニックで登録・利用されている。従業員数は開発担当を含めて15人。30歳で結婚、現在43歳。妻(39歳)、娘(中1)の3人家族。FJ会員。

ボスは年下の外国人・MIT出身・・・ダイバーシティに目覚めた30歳の頃

安藤:会社員(ソフトバンク)時代はどんな働き方だったんですか?

佐竹:朝7時すぎくらいに会社に来て、夜3時くらいに帰る、という感じでした。アメリカとも仕事をしていたので、現地の時間に合わせて電話会議をしたり、アメリカのニュース配信を翻訳して流すシステムの担当もしていたので、なにかトラブルがあったりすると自分に質問が来るので、とにかく忙しくて、歯医者に行くと寝てしまったり(笑)、そんな生活でした。

ソフトバンク時代に、ある医療系の大きな会社の立ち上げに携わって、ポータルサイトを作ったりしていたのですが、その会社が営業権譲渡で別の会社に事業の一部が譲渡されることになったんですね。その時の上司が、ソフトバンクグループに残るか、譲渡先の会社に移るか、自分で会社を立ち上げるか、その3つの中から選べば自分がサポートすると言って下さったんです。

安藤:それは、ある意味、「イクボス」ですね。

佐竹:そうなんです、とても素敵な方でした。結局、譲渡先の会社の方に移ったのですが、2年ほどそこからソフトバンクに出向するような形で、残った事業を担当していたんです。その時の上司が、自分より年下でした。その頃(2002年)ぼくは30歳で、上司は27歳で外国人、MIT(マサチューセッツ工科大学)出身。「世の中こういう時代なんだ、これからこうなって行くんだ」と強く感じました。

その頃から、ぼくは自分のまわりの方を全員「さん」付けするようにしました。自分より年下の人はたくさん今後出てくるだろうし、プロジェクトの中で社長とか部長とか役職名でよんでいたりすると、どうもやりづらかったりするんです。なので、どんな立場の方でも基本的に「さん」付けで呼ぶのが、とても理にかなっていると思いました。

安藤:それは、ダイバーシティに気付くきっかけでしたね。なかなか一般的な日本企業の中にいるとそういうことに気付けないから、ある意味ラッキーでしたね。

佐竹:まさにそうです。その頃から、週4日仕事をして、ほかの日は自分の仕事をするという形にして、ホームページを作ったりほかのサポートをしたりして、SO-HO向けの求人サイトを自分で運営し始めたのです。


安藤:その頃、僕と出会ってますね。(注:偶然、佐竹氏と安藤氏は近所に住んでおり、子どもの年が1つ違いであることもあって、同じ保育園に子どもを預けていた時期が。)

佐竹:保育園に行くといるお父さんは、僕と安藤さんくらいだったんですよね。9時30分とか10時くらいに保育園に子どもを連れて行くと、安藤さんがいらして、「一体この人は何をしているんだろう?」と思っていました。あの頃、バギーや自転車でそんな時間に保育園に行くお父さん、いなかったんですよね。


安藤:少し話が戻りますが、30歳で結婚というと、一番激しく仕事をしていた頃ですね。結婚生活としては働き方は大丈夫だったのですか?

佐竹:彼女も出版社で仕事していたので、土日もかまわず仕事していますし、今はうちの会社で広報として働いていますので、「やれるときにやらないとね」と理解してくれていました。

自宅オフィスとリモートワークでワークライフバランス

安藤:結婚してすぐ子どもが産まれ、ちょうど仕事が自宅に移る頃だったんですね。

佐竹:そうなんです、ちょうどそういう時期で。子どもが保育園にあがるころ、自分も自宅にオフィスを作って、会社に行って仕事は持ち帰ってするという形式に変えていたので、育児には良かったと思います。

丁度その頃、妻が仕事の都合で沖縄等に出張すると、自分の実家(山形県上山市)に連れて行くことも何度かありました。新幹線で、父親が一人で小さい子どもを連れているのは珍しかったのか、周りの人からとても助けてもらいました。あと、自宅オフィスだったので、スタッフにも育児を手伝ってもらったりして。ほんの1時間でも見ていてもらえると、本当に助かるんですよね。

安藤:ワークライフバランス的にはうまくまわせていた時代と言えますね。2007年に今の会社を立ち上げということで、その頃は忙しかったと思いますが?

佐竹:まだ事業開発をしているような段階で、ビジョンに対してどのように実現していけるかを会長(楊浩勇氏)と話をして、様々なクライアントに説明している間に仕事が頂けるような状態になり、ちゃんとこちらにコミットしてやらなければならないと。また、事業モデルとして、SO-HOで出来る内容と、チームでやらなければならない内容があるんですが、チーム化して取り組まないといけない感じになってきたんです。うちのCTOはフランス人(マルタン・イヴェリック氏)なのですが、その頃、彼も自宅で仕事をしていました。

安藤:イヴェリックさんは、お子さんは?

佐竹:2人います。とても親日家で、大学院の留学で日本に来て、そのまま日本の企業に就職したのですが、その頃から彼もぼくも自営を始めていたので、大きな案件が来ると、メッセンジャーでやりとりをして一緒に仕事をしたりしていました。2007年の前まではそんな感じで、いろいろな仕事の仕方をしながら、「自分は何をすると一番楽しいんだろう」と探っている感じでした。自分は、何も無いところから道を作るタイプではないのですが、流れの中で「自分はこちらの方が楽しい」と選んでいくように、今までの人生を歩んできた気がします。


安藤:マネージメント、社員のワークライフバランスなどで、やったことはありますか?

佐竹:以前いた社員で、家族が病気がちな人がいました。彼はリモートワークで家族をケアしながら仕事したいということでしたので、「ぜひそうしたほうがいい」と。うちの会社のリモートワークでもいいし、自分で違うチャレンジがしたいのであればそれでもいいと話しました。それで、円満退社となり、今でもたまに会ったり、うちの会社のイベントの時など遊びに来てくれたりします。

また、CTOも2人目の子どもが産まれたとき、2週間育休のような形で、リモートで仕事をしながら、ずっと家にいるという働き方をしていました。うちの会社は医療に関わっていますので、社員のそういったことは、例えば病気をしたら患者さんやお医者さんはどのように感じるのかということを考えるきっかけになりますし、その人の仕事や人生がより豊かになる経験なんですよね。

また、安藤さんもよくおっしゃいますが、育児というのはある程度時間やタイミングが計算できますよね。あとはその人自身が、会社でどうやりくりするかだと思います。うちの会社は残業があまりありませんので、やりたい人は家に帰ってからでも仕事出来ますし。あと、社員に外国人が多いので(フランス、ポーランド、ウクライナ、アメリカ人が2人と、社員の3人に1人が外国人)、仕事の後に他社の人と会うということみんな積極的にやっていたり、当社でも主催できるように企画中です。決められた時間の中でどう工夫するかというところにクリエイティビティがあって、それを大事にしたいなと思っています。

安藤:それが成長ですものね。もっと効率がよくなって、生産性が上がるということで。

佐竹:社員のモチベーションが、「成長と貢献がどうあるか」ということだと思っています。当社が提供するサービスも最初からマルチリンガル対応になっています。これも、例えば今後、社員の国でも使えるようになればいいと思いますし、やりたいという人にはどんどんやってほしいと思います。

安藤:女性社員は何人いますか?

佐竹:妻を含めて3人です。

安藤:独身の女性が結婚して出産というケースは?

佐竹:それがまだないんです。フルに働かなくていいから、「これをやってみたい!」という行動力のある女性に来て頂きたいです。ぼくらからすると、子育て中の方とかはすごく良いんですよね。当社では、患者さんと、病院、企業という3つの関係性を良くするツールを作ろうとしていますので、自分が怪我したりして病院に行くのも「患者」としての視点になりますし、子育て中で「これがあるといい」という思いがある人が作ってくれると、サービスの細部に神が宿るんです。興味がある人でないと続かないんですよね。

なので、そのシチュエーションにある人、そういう経験がある人が、他人ごとではなく、自分のこととして考えられると思います。あとは、どういうアウトプットが出来るか、そしてどういう働き方が出来るか、ぼくらがどういう風にその方の働き方にアジャストできるか。現在のぼくらの能力でアジャストできない可能性もあるわけですよね。そこが、ぼくらの会社としても成長のポイントとなるんです。ぼくも、海外の社員を採用するにあたってビザの発給方法を学んだりしていますので、ひとつひとつの変化に適応しながらやっていきたいと思っています。

<イラスト/東京新聞>

イクボス10か条

安藤:「イクボス10か条」というのを作っているんですが、どれくらい当てはまりますか?

佐竹:③に関しては、専門家の方に相談したり、他社の就労規則を参考にさせて頂いたりして学んでいます。④に関しては、ベンチャーですので、CTOの育休の様子などみんなが見ていますから、働き方に関してはよく共有できていると思います。⑥は会社立ち上げ当初からクラウドのグループウェアを導入していますし。みんな、自分のスケジュールに予定をどんどん入れていますし、ぼくや会長は家族の予定も書いたりしています。書きたくないことは、「重要」とか書けば良いし、予定が入れられたくないところはブロックしてしまえば
良いですからね。

安藤:だいたい全部、出来ていますね。さすがです。これ、ボスなら当たり前なんだけど出来てない人は巷に多いんだよね。

不満はチャンス

安藤:最後に、これから入ってくるだろう若い人たちに、イクボスとしてアドバイスやメッセージがあればお聞かせください。

佐竹:いろいろ試してみた方がいいんじゃないかと思うんですよね。不満はチャンスだと思うんです。どういう風にしたら変えられるのかという視点になりますし。また、ポートフォリオをいくつか持った方がいいと思うんです。大学では建築科に通っていましたが、建築家になるのが一番時間がかかるような気がしていたんです。一人前になるには10年以上はかかるだろうと。でも、結局自分が一人前になるのに、10年以上かかっているんですよね。浅はかだったと思います(笑)。

振返って見ると、30歳目前の頃は、30をいかにノリノリで「これから仕事できるぞ!」とセットアップするかということに目的意識を持っていました。自分はどう楽しく、より豊かに生活出来るか、生きていけるのかと考えていました。そして30過ぎくらいから、あまりにも忙しくなって思いが無くなり、35くらいでふと忙殺されている自分に気がついたんです。

そこで、「自分は何をやると楽しくてより豊かになれるかな」と考えた時に、①ずっと医療に関わってきたので、医療に携わる仕事(メディカル)、②実家が山形なので、地域ビジネスや、ハイパーローカルなアクションをとりたい(地域)(読み聞かせ/※佐竹氏と安藤氏は共に子どもが通った小学校で絵本の読み聞かせボランティアをやっている)、③自分がどういう風に生きていくか、という「生き方」(ライフデザイン)の3つ、すべてやりたいと思いました。

そして、今メインでお金を頂くところと、ボランティアするところ、そして学ぶという3本柱が、うまく入れ替えたりローテーション出来たりすると、より自分の人生が豊かになると思ったんです。以前誰かに言われたのですが、目の前にある選択肢が1つの時は「洗脳」、2つの時は「脅迫」、3つめからようやく「機能的に人が選べる」いっぱいあると迷うのですが、選択肢を持たせる時には3つ以上だと良いそうです。

自分の中では今、この3つのテーマを持ってやっています。年を取ってから突然そういうことをやるには、リスクが高すぎると思いますので、若いうちからやってみるといいと思います。

あと、若い人たちと一緒に仕事やプロジェクトをしたいですね。当然、年上の方々とは今も、色々教えて頂いたりしながら仕事していますが、「これを、こう考えるか!」とか、「この発想、すごいな!」というのがすごく楽しいんです。自分のまわりに、「この人、これ優秀だな!」とか、「この視点があるのがすごいな!」という、新しい視点があるのが楽しいんです。

安藤:若い人と競ってしまう上司もいるからね。


佐竹:そうならないためにも、自分が組織を作って、そこに関わろうとずっと思っています。お祭りも、神輿を見ているより担いだ方がずっと楽しいですから。若い人のことも、ステレオタイプで見るのではなく、「あなたは何がしたいのか」と質問する力で、その人のクリエイティビティというか、その人の輪郭がみえてくると思うんですよね。質問する力は、ぼくの課題でもあります。

安藤:そういう質問が出来る管理職が増えるといいと思いますね。全部自分でかかえて誰にも相談出来ないという人をたくさん知っていますので、もうちょっと部下を信用していろいろ聞いてみればいいと思う。

佐竹:そういう上司のパターンは、ゴールをはき違えていますよね。自分を守ることがゴールになっている。
「このチームの中でどこの高みを目指すか」とか、「ぼくらどうやってグルーブしてここでいい感じで仕事するか」とかがゴールになっていない。優秀な部下がいた方が楽で良いじゃないですか(笑)。「こいつの手柄なんですよ!」と言い続けて、どんどんチームが成長していけばいいんです。イクボスに限らずどこでもあることかもしれませんが、そういうところで働けない優秀な人が出てくるというのはもったいないと思います。

安藤:そういうところに余裕を持ってマネジメントできるような、意識のチェンジや環境があるといいなと思いますね。みんな余裕が無くなって、家庭のことや地域活動をする時間が無くなって、狭いところをぐるぐる回っているような状況が長年続いたので、佐竹さんのような新しい感性でインパクトのある仕事をしているボスを見ると、元気が出ます。小学校で絵本とか読んでるからね(笑)。そういうシーンの「佐竹パパ」と、会社にいる時の「佐竹ボス」が、僕から見るととても自然に見える。

佐竹:子どもも会社に遊びにくるんですよ、僕だけじゃなくて社員の子どもも。あとその子どもの友達も来たり。会長の飼い犬もたまに来たりするので、夏休みなどはその犬と散歩しに来たりとか。ぼくは、地域活動で知り合った方の息子さんと仲良くなって、その子が友達つれて会社に遊びに来てくれたりもします。

その中学3年生の子とFacebookで友達になったりして、「映画が作りたいんだけど」なんていう相談に「クラウドファンディングっていうやり方があるよ」とアドバイスしたりして。自分の子じゃない子と話していることで、「こういうことを考えるんだ」と参考になったりすることが、よくあります。

安藤:それも地域活動の成果ですね。職場と家を往復しているだけのお父さんは、なかなかそうはなれないよね。

佐竹:そうですね。「何を考えているのか、何を見ているのか」ということを知りたいんです。それが自分たちの会社を良くしていくことにも繋がると思うし、ぼくらの強みを教えてくれることにもなりますから。

「なんで来やすいと思ったのか」とか聞いてみて、その理由を教えてもらえたら、「こうやって人に伝えるとより来てくれるんだ」ということが分かったりしますから。テストマーケティングなんです(笑)。

安藤:今日はありがとうございました。
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インタビューの後、毎週水曜日の社員交流ランチに参加させていただきました。隔週で言語が「日本語」「英語」となっていますが、それぞれの言葉が苦手な社員には、ほかの社員がフォローします。毎回、フリートークのリーダーが決められていて、この日の話題は「映画」。自分の好きな映画について各自が話し、とても和気藹々と盛り上がりました。日頃からの社内のコミュニケーションがうまくいっている様子が、とてもよく分かりました。メディ・ウェブの皆さま、本当にありがとうございました。

インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
(筆:笹川直子)