[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第22回】小林大輔さん(アサヒビール株式会社 営業本部 販促量販統括部 販促グループ次長)

[公開日] [最終更新日]2020/06/13



イクボスロールモデルインタビュー第22回は、「イクボス企業同盟」にも加盟しているアサヒビール株式会社の小林大輔さん。

全社の販促立案を統括する重要な役割を担う営業本部 販促量販統括部 販促グループ次長として、14人の部下を率いる。「優秀な部下に恵まれているので、イクボス的なことはなにもしていないですよ」といいながらも、「会社の仕事は“全員野球”」をモットーに、チーム全員が働きやすい職場づくりに力を注ぐ。

現在都内に単身赴任中。2児の父でもあり、「週末、福岡に住む家族の元に帰るのが何よりも楽しみです」という小林さんが語る、イクボスの価値観とは?

〈小林大輔さんプロフィール〉
アサヒビール株式会社営業本部 量販統括部 販促グループ次長。ユニチャーム勤務を経て2000年にアサヒビール株式会社に中途入社。その後福岡勤務を経て東京本社、2008年より現職に。現在都内に単身赴任中で、妻と2人の子ども達は福岡に住む。

育休復帰後もバリバリ働く優秀なメンバーに恵まれて

安藤:小林さんは、ご結婚して最初のお子さんが生まれたのは何歳の時ですか? その頃のご自身の働き方はいかがでした?

小林:結婚したのは27歳で、33歳の時に一人目が生まれました。当時は当社の都内の社宅に住んでいたのですが、福岡に異動になり、家族3人で福岡に引っ越しまして。その後福岡で二人目が生まれました。働き方については、妻はパートに出たこともありましたが、基本、「僕が働いて妻は家を守る」というスタイルです。当時は「男性が育休をとる」という空気は全国的にもあまりなかったですし、僕自身も育休はとっていません。

安藤:管理職になられてから、産休や育休に入る部下の女性社員を送り出し、復帰した社員を迎え入れてきたということですが、そのような部下と実際に接してみていかがでしたか?

小林:もちろん、復帰後は多少気を使うようにはしていましたけど、基本、「この人は育休明けだから」などとあまり意識しないようにしていました。復帰後は時短勤務で4時半くらいに帰る社員もいますが、復帰明けとは思えないくらいの素晴らしい仕事ぶりで。そういう意味では優秀なメンバーに恵まれていると思います。

安藤:イクボス的管理職は、部下が育休や産休に入る前、復帰後のプランを面談されたりしますが、小林さんも行いましたか? どのようにされました?

小林:面談はしました。最近は子どもを保育園に入れることも大変だと思うので、その辺も含め、「子どもがある程度手が離れるまでは、じっくりみてあげて。会社のことは心配しないで、皆で待っているから」という感じで送り出しました。


安藤:かつては男性社員と同じように活躍していた女性社員が、産休、育休を取得すると、それまでのキャリアがリセットされて降格になってしまったりする現象が日本にはありますが、その辺についてはいかがでしたか? 育休から復帰後、「お母さんになったのだからこれまでみたいに働けないでしょう」ということで、アシスタント的な業務にしてしまうボスもいるようですが。

小林:うちの部署に限っていえば、あまり関係ないですね。たまたま優秀なメンバーが集まったのかもしれませんが、復帰後の社員は皆モチベーションが高く、復帰前と変わらずバリバリ働いています。能力も本当に高く、子育てしながら働いているという環境でありながら、すごくがんばってくれています。「もしかしたら頑張らせすぎているかな」「もう少し配慮してあげたほうかいいかな」と思うことがあるくらいです。

安藤:なるほど。でも、自身のがんばりが、正当な評価につながればいいですよね。

小林:そうです。そこがいちばん大事だと思っています。

安藤:キャリアプランとライフプランのバランスがその人の中でとれていて、かつ会社から評価されている、期待されているという風土が社内にあれば、女性男性限らずのびていきますよね。育児や介護で時間制約がある人たちは、どうしても自分の評価を気にしてしまったり、制約があることで働く意欲を下げてしまったりなどもありますが、その点、アサヒさんは風土づくりがかなりできていらっしゃいますね。

三浦一郎さん(人事部 採用・成長支援グループ ダイバーシティ推進担当 次長):そうですね。当社は産休や育休を取得しても、復職後は取得前の評価のまま戻れ、ある意味“気にせず休める”という体制は整っています。現在、当社の産休、育休後の復帰率はほぼ100%です。ただ、復職の仕方に関しては、各部署に加えて人事のほうでも面談を行っていて、本人の希望により「100%同じ部署に戻る」というわけではないですね。

安藤:なるほど。御社の女性社員は、総じて復帰後もやる気をキープしている方が多いのでしょうか。

三浦:実際のところ、復帰後も復帰前と同じように働く女性社員の割合は1~2割くらいです。実の親と同居など周辺のサポートに恵まれている社員は、復帰後も時短勤務をとらない方もいますし、逆に小学校中学年くらいまで取る社員もいます。当社は2015年の夏から、在宅勤務制度を本格的に導入しました。研究開発部門や、本社の人事総務など企画系部門、そして営業部門などでも、いろいろトライアルを行ってきましたが、やっとスタートできました。

小林:うちの部署の育児中の社員も、この制度を使って今日は在宅勤務です。育児中の社員には非常に良い制度だと思います。

安藤:とある会社でも、在宅勤務制度を導入した結果、会社を基点に出たり戻ったりというタイムロスが削減できて労働時間が減り、営業のアポ取得率が160パーセントになったそうです。在宅勤務制度は業務の効率化がメリットとしてあげられる反面、「会社で待機している管理職が部下不在を寂しいと思わないか」みたいなところも危惧されていますが、今後はテレワークもどんどん進みそうですね。

三浦:そうですね。まさに管理職の“慣れ”の問題もありますが、当社でも来年あたりからスカイプを使えるようにしようと、社内での導入を企画しています。

安藤:お互いの表情がみえるとちょっと違いますよね。グループ会議やったりできますしね。小林さんは、テレワークやスカイプによる会議には抵抗ないですか?

小林:全く抵抗ないです。

安藤:御社も少しずつダイバーシティの環境が整ってきたということでしょうか。スカイプの使い方などは、会社として社員に教育されるのですか?

三浦:今のところはハード面だけ用意した感じですが、活用に対する啓発も行っていきたいと思っています。あとは持続力ですよね。当社はどちらというと、トップダウンが強い会社なので、トップダウンルートで「全社的に活用しよう」という方向にもっていきたいですね。現場で習熟度をあげ、トップダウンで啓発する、この両面からアプローチしていくことが大切かと思っています。

安藤:今後は育休に加えて介護による休業が増えてくると予想されていますが、御社ではいかがですか?

小林:今のところ、うちの部署では介護休暇はまだないですね。ただ、いつ自分が必要な状況になってもおかしくないと思います。僕は今東京に単身赴任していて家族は福岡に住んでいるのですが、僕の両親は東京に住んでいるので、両親のどちらかが介護が必要な状態になったら福岡の家族をよぶのかどうするのか……。その時の状況にもよりますが、悩むところではあります。

安藤:御社は、社員向け介護セミナーは行っていますか?

佐々木:一部行っています。全社的に見ると、介護休暇の取得者は若干名おりまして、今のところ介護による離職者は出ていません。

テーマは「全員野球」。チームの一体感を大切に

安藤:介護も育児と同様、実家のサポートなどがあるといいのですが、単身赴任されていて介護の問題もかかえているボスなどは大変ですよね。東京で働いていて、週末実家の九州に帰って介護をするという遠距離介護の管理職もたくさんいますから。この辺は、これからの課題ですね。ところで、部下の育成について、小林さんが意識して実践していらっしゃることはありますか?


小林:先ほども少しお話ししましたが、幸いにして優秀なメンバーに恵まれているところもたくさんある中、メンバー全員、チームの一体感を常に大切にしています。独身、既婚、育児中などさまざまなメンバーがいる中で、ひとつのチームとして皆で仕事をしていくことを心がけながら、困ったメンバーがいたらいつでもお互いに声をかけあえるような雰囲気を作り、メンバーがかかえている仕事すべてを共有するようにしています。14人いると、それぞれの成果やつまづいているところなどいろいろ出てきますので、その辺を常に共有し、「隣の人は何する人ぞ」みたいな雰囲気にならないよう心がけています。

安藤:独身の社員が、ママ社員が子どもの病気を理由に休んだりすることに対して不公平感を抱いたりする風潮もあり、このような部下の反応に悩むボス達の話も聞きますが、小林さんの部署にはそういう雰囲気はないですか?

小林:ないですね。基本、チームは助け合うものですから。いかなる理由にせよ、「困っている人がいたら、フォローしあい、助け合う」という発想で通しています。お互い自分がいつそうなるかわからないですし、仲間ですからね。

安藤:なるほど。全員野球みたいなものですよね。

小林:そうですね。幸いなことにうちの部署は、僕が日頃からそういうことを言わなくても、皆で自然とフォローしあってあり、助け合ったりする雰囲気ができているんです。繰り返すようですが、メンバーがいいんですね。僕がどうこうじゃなくて、メンバーに恵まれていると思います。

安藤:部下から不平不満はいわれたことありますか?

小林:それが、ないんですよ。

安藤:そういう雰囲気もないですか?

小林:僕が一人でそう思っているだけかもしれないですけど(笑)、ないですね。

安藤:アサヒさんすごいですね。小林さんのような部署ばかりだったら、僕らが御社でイクボス研修する必要ないですよね(笑)。

三浦:いやいや、実際はいろいろありますよ。小林の部署は、これまでスーパーなどの量販店を営業で回っていた現場のエースクラスの女性社員が多いんです。現場を理解し発言力があり、仕事も早いという優秀なママ社員が集まっている部署でもあるので、いいサイクルで回っている部署のひとつということです。他の部署では、育休復帰後、時短勤務を選んではみたものの、ふたをあけてみると、家庭の状況も様々で、想定通りに仕事をこなしきれなかったり、「周囲に迷惑をかけたくない」と、業務の質量をセーブせざるを得ない社員もいます。

しかし本来、育成の面から見ると、部下にとって、少し難易度の高い仕事にもチャレンジさせるのがボスの役目です。それは時短社員も変わりありません。また、時短社員本人は、限られた時間の中で、どうやって成果を出すか自ら考え工夫する事で、生産性に差が出ます。産前とは仕事の仕方、時間の使い方が変わって来ます。全社的にイクボス的発想なダイバーシティの理解や啓発がすすんでいるかといったらまだまだなので、イクボス企業同盟に加盟して知恵をお借りしていきたいと思っています。


安藤:小林さんの部署が、全社的なロールモデルとなっているのですね。小林さんご自身が、イクボスとして見本になっている意識はありますか?

小林:まったくないですね(笑)当たり前もなにも、手本にあるようなことは何もしてないですよ(笑)。

三浦:弊社でも、小林の部署をまつりあげるというよりは、まずはファーストステップとして、自然な形で部署全体がいいサイクルで回っている部署として注目してもらい、少しずつ広がりを作っていきたいと思っています。

部下からのアドバイスは「飲み過ぎに注意してください」

安藤:そうですね。小林さんの部署のような働き方が社内で標準化することができたら、子育て世代も楽になります。イクボスの標準化は、介護世代の社員にも効果的だと思います。育児はある程度予測がつきますが、介護はいつ始まるかわからないですし、始まってからその対処にバタバタしてします会社が多いので…。とくに、介護をする人たちって、管理職本人だったりするパターンが多いですから。現場のトップが突然家族の介護に直面し、急に事業が止まってしまうこともありますからね。

これまでお話を聞いていると、小林さんは、「自然体のイクボス」という感じがします。部下からはどのような評価を受けているのですか?

小林:結構ありがたい評価をいただいています。恥ずかしくて口に出してはいえないですが、(笑)ありがたいコメントをたくさんもらいました。でも厳しいことも書いてありましたよ。「飲み過ぎには気をつけてください」って(笑)。

安藤:それはまあね(笑)。でも、部署としての業績も良いのですよね。

三浦:量販統括部は、全社の数字を背負う部署ですので、全国の量販営業部隊を牽引し、成果につなげて頂いています。

安藤:イクボスは、部下にやさしいだけがイクボスではない。部下の意欲を高めつつ、結果を出すことも大切です。そうでないと、 “福利厚生の充実”だけで終わってしまいますから。小林さんはその辺をしっかり意識されて、“全員野球”をされているというところがすばらしいですね。確かにそうですよね。全員野球じゃないと、試合には勝てないですから。1番から9番までそれぞれ役割があって、控え選手も戦力で。打線と守備、両方の歯車がかみ合っていないといけません。

小林:そうです。レフトが抜けたらふたりで外野を守る。あとショートがちょっと後ろまで下がればいけるよね、みたいな感じかと思っています。

安藤:なるほど。次長である小林さんは、全員野球の監督ということですね。チームの仕組みがよくわかりました。ちなみに小林さんの上には部長さんがいらっしゃるのですか?

小林:います。部長も相談しやすい方なので、いろいろ相談させてもらっています。

安藤:風通しがよくていいですね。話は変わりますが、ご自身は何時頃に仕事を上がりますか?

小林:その日によって違いますが、基本、早めに帰るようにしています。自分のこれまでの経験からして、上司がずっと会社に残っていると部下は帰りづらいじゃないですか。なので、意識して早く上がるようにしています。

安藤:早く帰った時は何をしていますか?

小林:大体飲みに行っていますね。相手は社内の人間や学生時代の友達などいろいろですが、社内の人間が6、7割ですかね。今の部署のメンバーとも当然よくのみにいきますね。毎回くだらない話をしていますよ(笑)。うちの社員はみな、飲みの場が好きですから。

安藤:そうなんですね。「飲み」で結構悩んでいるボスもいるんですよ。若い社員と“飲みニュケーション”が成立しないって。若手と話をしていても、うてばひびくという感じがないとか、つかみどころがないとか、どうアプローチすればもっと仕事へのモチベーションを上げてもらえるのかがわからないという声も良く聞きます。小林さんからみて、御社の若手社員の様子はどうですか?

小林:いつも時代も「今どきの若いやつは…」みたいな声を聞くじゃないですか。年をとると自然とそういうことをいいたくなってくるんですかね。少なくとも今の僕にはそのような感覚はないですね。僕の若い頃を振り返って比べてみても、うちの若手社員は皆、しっかりしているなと逆に思いますよ。

安藤:すばらしい。職場の雰囲気も良く、メンバーが皆明るく元気で。上司として相談しやすいんでしょうね、小林さんは。

小林:あ、それはそうかもしれないですね。仕事でもプライベートでも、忙しかったりいろんな問題が起こったりで回りが見えなくなりそうになる時ってあるじゃないですか。そんな時でも、部下からきた相談に対しては、それを何よりも最優先して答えるように心がけています。

安藤:なるほど。そこが小林さんのイクボスたる所以ですね。イクボス的発想は、子育てにも通じるんですよね。ファザーリングジャパンでも、家で子どもが「お父さん」って話しかけてきたら自分がどんなに忙しくてもそこでちゃんと向き合わなきゃだめだよと伝えています。小林さんは、お父さんとして、お子さんたちにはそのような対応ができていますか?

小林:単身赴任で離れて暮らしていて、週に1度は福岡の自宅に帰っているのですが、子どもたちとは結構話していますね。小6の男の子は思春期で、いっしょにお風呂に入ってくれなくなって寂しいですけど、それでも子どもたちとはいろんなことをしゃべっていると思います。普段話せないぶん、妻ともしゃべりまくっていますね。今日もこれから仕事が終わったら、福岡に帰るんですよ。明日から3連休なので、今週はそれだけを楽しみに働いてきました(笑)。

安藤:なるほど。管理職になると、「ボスとしてしっかりやらなきゃ」とか「評価を下げないようにしなきゃ」とか、肩に力が入ってしまい、家庭が疎かになる人が結構いるんですよ。でも小林さんにはそれがあまりない。いい意味でぬけていて、いいですね。

小林:それくらいのほうが、部下も緊張しなくていいのかもしれないですね。部下の立場にたってみたら、上司がいつもピリピリして、常に監視されているようなのはたまらないですもんね。

安藤:これから新卒で入ってくる人たちは、給与などだけでなく、社員の働き方をみてきます。イクボス企業同盟に加盟している御社は、トップレベルの“働きやすい会社”として浸透していくといいですね。最後に、仕事をしながら子育てや介護と向き合っている人、これから向き合う人たちへのメッセージをお願いします。

小林:キャリアプランもライフプランもどちらも大切ですが、僕自身は、キャリアプランよりもライフプランのほうが圧倒的に大切だと思っています。家族がいちばん大事で、家族のために働いていますから。そういう意味では、会社においてもライフプランを最優先に考えながら、自分や家族の人生が充実するような働き方ができるチームというのが、より強いチームになるのではないか、と思います。

安藤:なるほど。「ライフ」を意識して生産性を高めることが、チームにとってもいい。

小林:そうです。「ライフ」の健全化はすごく大事なことだと思います。

安藤:「ライフ」が健全であれば、業績もアップする、と。

小林:まあ、時には達成できない時もありますけど(笑)、メンバー全員が明るく元気に働けるような環境でないと、なんの成果もうまれないと思うので、そういった意味では、「ライフ」の充実が大事と思います。

安藤:やはり、「プライベートより仕事」じゃないですよね。

小林:まったくない、1ミリもないですね(笑)。「ライフ」があって「仕事」がある。どちらも連携していくものだと思います。

安藤:すばらしい! 御社のビールのような、さわやかでのどごしすっきり(笑)のお話をありがとうございました!


(筆・長島ともこ)

2016年2月11日「イクボスロールモデルインタビュー」より転載