[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第21回】徳永尚文さん(株式会社日立ソリューションズ 執行役員)

[公開日] [最終更新日]2020/06/13



イクボスロールモデルインタビュー第21回は、「イクボス企業同盟」にも加盟している株式会社日立ソリューションズ執行役員兼ITプラットフォーム事業部長の徳永尚文さん。

“亭主関白”世代にもかかわらず、妻の出産をきっかけに家庭のあり方について自ら認識を変え、育児に積極的に参加。職場では、部下を自宅に招き、自らの手料理でもてなしながらざっくばらんにコミュニケーションをとるなど風通しのよい環境づくりに注力する“生粋のイクボス”として1,000人の部下を導く。

こんな徳永さんのイクボス的思想のルーツは、意外にも、陸軍の軍人だった父親の姿にあった。取材は、氏の自宅のリビングにて。得意の手料理がふるまわれるカジュアルな雰囲気のなか、“徳永流”イクボスの価値観や心構え、今後の展望について伺った。

〈徳永尚文さんプロフィール〉
1954年埼玉県所沢市生まれ。1980年に株式会社日立製作所に入社、デバイス開発センタに配属され先端LSIの開発を行う。その後さまざまな部署で実績を重ね、2014年に、株式会社日立ソリューションズ執行役員兼ITプラットフォーム事業部事業部長に就任。妻と2人の子どもの4人家族。趣味は料理のほか、磯釣り、ゴルフ、ランニングなど。好きな言葉は老子の格言で「人に魚を与えれば一日生かすことができるが、人に魚釣りを教えれば一生養うことができる」

バリバリの軍人だった父親が反面教師

安藤:徳永さんは、いつから執行役員になられたのですか?

徳永:2014年の春からです。1980年に日立製作所に入社し、日本IBMに負けないような“日の丸コンピュータ”をつくろうと大型汎用コンピュータ用のLSI(高密度集積回路)の開発に従事していました。その後、情報・通信グループ戦略事業企画、指静脈認証装置のグローバル事業などに携わったあと、2013年にITプラットフォーム事業部長に就任し、その翌年に執行役員も兼ねるようになりました。現在部下は約1,000人います。

安藤:ご結婚は何歳の時にされたのですか?

徳永:28歳の時です。今年で結婚して33年になり、子どもが二人います。29歳の長女、27歳の長男はそれぞれ独立しました。(食器棚の上に飾られたご夫婦の写真を指差しながら)それは妻とフランスのロワール城を訪れた時の写真です。妻は学生の頃からの知り合いだったのですが、結婚した当時フランス語を勉強していたので、新婚旅行先はフランスを希望していたんです。でも当時はお金がなくて、北海道でがまんしてもらいました。結婚後、相当長い年月がたってから、長年の夢を果たすことができて妻に喜んでもらえました。(笑)


安藤:素晴らしいですね。結婚前と結婚後でご自身の働き方は変わりましたか?

徳永:結婚前は、仕事一筋でしたね。結婚してしばらくしてからも、それまでの延長で仕事第一でした。でも子どもができた時に、ふと思ったんです。「子育ては、妻だけでなく夫婦のチームプレーが大切だ」と。独身の時と同じように、妻だけに家事も育児も全部まかせるのはよくないと思い、自分のできる範囲で関わりながら、「家庭ではなるべく自分の悪いところを出さないようにしよう」と心がけることが大切だと気づきました。この考えは、主任として初めて部下をもつようになった社員への研修の時にも、「リーダーとして自分の悪いところを出さないよう心がけ、自分一人の成果を出すよりも、チームとしての大きな成果をめざす気持ちを忘れずに」と話しています。主任昇格というタイミングは育児が始まる時期と重なりやすいので、職場でも家庭でも、これをモットーにしてほしいと思っています。

安藤:なるほど。徳永さんは還暦を過ぎ、“亭主関白世代”の方ですよね。これまでに、この世代で「男性も育児や家事に参加しよう」と発想する人にお会いしたことはほとんどなかったです。どうしてそのような考え方になったのですか?

徳永:いい質問ですね(笑)。これは僕の生い立ちと関係あるのですが、実は僕の親父は、陸軍士官学校出の軍人で、第二次世界大戦の時は、インドネシアにある石油基地を奪取するという重要な任務にあたっていたんです。バリバリの軍人で、「いざとなったら俺は、妻と子どもを置いてでもお国のために死ぬぞ」という人だったんです。戦前の教育を受けたイクボスの対局をいく考え方の人でした。

安藤:まあ、あのころは仕方がないですよね。

徳永:当時は親父のそんな生き方が許されたのかもしれないですが、親父を「父親」としてみた時に、家族に対してやさしい面ももちろん少しはありましたけど、厳しい面のほうがかなり大きくて、「なんで家族にこんな仕打ちをするのだろう」と、子どもなりに相当不満をもっていました。母に対する態度も高圧的で、幼な心に「これはいかん」と。親父は僕にとって、反面教師だったんです。まあ、時がたってからいろいろ分析してみると、これは親父だけの問題ではなく、戦時下であったこともあり人を大切にできなかった当時の日本の陸軍や軍隊の姿があり、日本が負けた理由もここにあるのだろうと思いましたけどね。親父の背中を見ながら、せがれである僕は、「ああはなっちゃいかん」とずっと思ってきたんです。

安藤:当時の日本、そして家族という「組織」を、徳永さんなりに相対化して、観ていたのですね。

徳永:そうですね。その経験があったから、結婚して子どもを持った時に、「僕は親父みたいにはならない」「家族を大切にしよう」と思ったんです。


安藤:なるほど。実は僕も、昭和6年生まれの父が反面教師でした。家で父親が、笑顔でいた記憶があまりないんです。だから今、「笑っている父親を増やそう」という活動をやっているんです。

徳永:なるほどね。やはり、大人になってから、自ら何かを発信している人というのは、根底に子ども時代の経験や思いが存在しているのかもしれないですね。軍隊の話を続けますが、先ほどもお話したように、当時の日本軍のいちばんの問題は、人を大切にしなかったことだと思うんです。アメリカは空中戦の時、その下のエリアに潜水艦を配置して、万が一自国の戦闘機が海に落ちたら、すぐにパイロットを助けに行く体制を作っていたというじゃないですか。「いざという時の備えは十分するから、心配なく戦ってこい」というのがアメリカの考え方ですよ。それに対して日本は、「絶対負けるな」「落ちたら死ぬぞ」という特攻精神ですよね。

安藤:このあいだドイツの働き方に関する本を読んだのですが、ドイツは、戦争中でも有給休暇があるんですよね。軍人が国に対して「休暇とらせないと戦争に行かないぞ」みたいな意見を言えやんだそうです。当時の日本の軍は、「人を大切にする」という思想をベースにしたマネジメントができなかったということではないでしょうか。

夫は単身赴任、子どもは独立して寂しがる妻に、インコをプレゼント

安藤:“亭主関白世代”の徳永さんの、イクボス、イクメンの思想のルーツが良くわかりました。お子さんが小さい頃、徳永さんは子育てにはどのように関わっていたのですか?

徳永:子どもは文句なしにかわいかったので、なるべくいっしょに遊ぶ時間を作っていました。息子が少年野球をやっていたので、少年野球のコーチをやっていましたね。少年野球のコーチって結構大変なんですよ。夏の暑い盛りに朝6時くらいに小学校のグランドにいって白線を引いたり、審判やったり。審判もずっと立ちっぱなしですし。地域のつながりも大切だと思っていましたので、父母会の会長も経験しました。

安藤:素晴らしいです。当時、徳永さんの上司に対して、育児を理由に「早退させてください」などと申し出たことはありましたか? その時の上司の反応はどうでした?

徳永:そんなにしょっちゅうではなかったですが、ありましたよ。上司も快くOKしてくれました。

安藤:イクボス、当時もいたじゃないですか。

徳永:当時僕が勤務していた開発センターでの仕事は、ある一定の期間内でやるべきことを終わらせることができれば普通に帰宅できたんです。もちろん、何かトラブルが起こるとしばらくうちに帰れないこともありましたけど、基本、工夫次第でメリハリがつけやすい職場環境だったというのも大きいと思います。

安藤:お子さんが熱をだして奥さんが大変な時に、なるべく早く帰ったりもされていたのですか?

徳永:そうしていましたね。

安藤:部下時代に上司にそういう風にしてもらうと、自分が上司になった時、部下に対しても同じように対応するようになるというのはよくいわれていますよね。子育て期、転勤など環境の大きな変化はありましたか?

徳永:転勤はなかったのですが、2002年から、御茶ノ水の本社に通うことになったんです。それまで工場が青梅にあって、青梅の近くに家を買って職住接近で通勤していたのですが、青梅から御茶ノ水となると毎日の通勤が難しいため単身赴任になり、週末だけ青梅の自宅に帰る生活になりました。下の息子が高校に入ったばかりくらいの時だったと思います。

安藤:思春期まっただ中じゃないですか。

徳永:まあ、そうですね。でも息子は精神的に大人で、「家族に男はお前しかいなくなるからちゃんと守れ」と言ったら「わかった」って感じで、特にいざこざのようなものはありませんでした。単身赴任とはいえ、青梅から御茶ノ水で、何かあったら2、3時間で帰れるため大きな心配はなかったです。それ以来、ずっと単身赴任です。

安藤:え? そうなんですか? このお宅は、徳永さんの単身赴任の宿なんですね。娘さんも息子さんも独立されて、青梅のご自宅にお一人で生活する奥様は寂しいのではないですか?


徳永:そうなんです。子どもたちが独立し、妻がひとり暮らしになったばかりの頃は、さすがに寂しそうにしていまして……。で、これはいかんと、インコを買ってあげたんです。1匹めのインコは洗濯物を干している時に逃げられてしまったので、すぐに2匹目をプレゼントしました。その後、家の近所で、どこかで捨てられたニワトリを見つけましてね。動物愛護の精神から家に持ち帰って飼うことにしたんです。そしたら当たり前なんですけど、朝の5時くらいから庭で「コケコッコー」と泣きっぱなしで(笑)。

そこで、夜の間に鳥小屋に遮光カーテンをかけ、次の日の朝、近所の方にご迷惑がかからない時間になったらそのカーテンを開けるようにして飼うようにしました。飼ってみるとニワトリもいいものですけど、インコは歌も歌うし言葉も覚えるしで、とてもかわいいですね。僕も、週末帰るたびにかわいがっています。どうも僕のことが好きみたいで、よくなついてきますよ(笑)。

安藤:最近のイクボスは、ペットのインコもマネジメントできるのですね(笑)。ペットといえば、最近、ペットが体調不良などの時に休暇をとる「ペット休暇」の導入を検討する企業も増えてきています。都会で一人暮らしをしている女性がワンちゃんやネコちゃんを飼っているとまさにシングルマザーと同じ状態ですからね。我が家も猫を飼っているのですが、保険会社でフルタイム勤務している妻は、先代の猫が亡くなった時、会社を2日休んでいましたよ。かつてのペットは外でつながれているだけでしたけど、最近では「家族の一員」と考える人も増えてきています。だからこその「ペット休暇」だと思います。あえて休暇制度つくらないにしても、会社にそのような状況を言いやすくなっているかどうかが重要です。

ところで家族もペットも大事にされる徳永ボスは、部下が1,000人いらっしゃるということですが、職場ではどのようなマネジメントをしていらっしゃいますか?

社員を自宅に招いて会食する“トク’ズ キッチン”開店

徳永:基本の部分は個々にまかせていますが、やはり仕事の上では、部下をきびしく指導したり、場合によっては叱ることもあります。

安藤:部下を厳しく指導したり叱るのは、どのような時ですか?

徳永:今の私の立場でいうと、やはり業績関係ですよね。どこの会社もそうでしょうけど、営業利益の目標を達成できなかったり、予算を決めて1カ月でギブアップ宣言してくるなどという時です。

安藤:そういう時は、どんな言い方をされるのですか?

徳永:私のところには、業績関係のデータとして数字がたくさん集まってきますので、現時点で問題だと思われる数字を指摘し、改善するためのアドバイスを具体的に行っています。でも、職場でただ叱るだけでなく、もっとコミュニケーションをとりながら業務の改善ができないかという思いもありました。

また時には「さっきは叱りすぎてしまったかな」と思うこともありました。そんな“罪滅ぼし”のような気持ちから、「今度、うちこいよ。ゆっくりのみながら話そうぜ」と、社員を自宅に招いて手料理をふるまいながら会食することを始めたのです。2002年から単身赴任しているので、社員も気軽に来やすいのか、これが通例化してきまして。ある時は大人数で、またある時は一人でなど、たくさんの社員が来るようになり、いつのまにか社員の間で「トク,‘ズキッチン」と呼ばれるようになり、今に至っています。

最近では業務改善のためのコミュニケーション以外にも、結婚の報告にくるカップルや、産まれた赤ちゃんを見せにくるカップルもいます。伴侶を見つけようとしている独身の社員同士を引き合わせる場として「トク’ズ キッチン」に招くこともあります。

安藤:やるなあ。イクボスは、恋のキューピット役もつとめてしまう(笑)。

徳永:もちろん、うちに来る社員すべてがいい話や楽しい話をしに来るわけではないですよ。「仕事で悩んでいます」とか、「仕事をがんばれなくて、へこたれています」とか、最悪の場合は「退職したいです」という場合もあります。

安藤:そうですよね。でも、退職を考えている社員って、ふつう、上司の自宅まで行かないですよ。上司が徳永さんだからわざわざ足を運んでくるのだと思います。それほど信頼されているのですね。

徳永:さっきの主任さんへの言葉じゃないですけど、自分ひとりで100%働こうが200
%働こうが、部下1,000人それぞれが10%モチベーションアップすれば、それだけで100人力ですから。会社という組織では、部下に気持ちよく、これまでよりも10%、20%多くパワーを出し切ってもらうことが大切なので、そのような環境づくりに徹したいと思っているんです。それを行うためにもまず、お互いの信頼関係、そして、プライベートも含めてお互いによくわかりあっていることが大切だと思うんです。

これは、われわれの部署だけでなく会社全体でやっているのですが、当社には、定年を迎えたベテラン社員が若手を中心とした現役社員からさまざまな相談を受ける「よろず相談」という制度があります。就業時間に、30分~1時間の時間を設けて行っているのですが、そこでは仕事の話でも体調などプライベートの話でも何を言ってもいいんですよ。そこに出てくる社員からの要望などを全部採用しきれるわけではないのですが、重大案件だと判断された場合は各部署のトップ間で共有して対策を練るなどしています。何よりも、相談員が話を聞いてあげるだけでも社員の顔色がずいぶん明るくなるようで、それだけでも価値があると思います。


安藤:自分が思っていることを聞いてもらうだけでも救われますよね。鍛冶さんも、何か救われたことはありますか?


鍛冶:私は今、4歳と1歳の子どもがいるのですが、いちばん最初に「よろず相談」を受けた時は、結婚したばかりでまだ子どもがいなくて、仕事中心の夜型生活だったんです。「よろず相談」で、「何時に起きているか」「ご飯は作っているか」「帰ってどんな生活をしているか」などについて聞かれたのでありのままに答えたら、「もっと朝型生活にしたほうがいいですよ」とアドバイスをいただきました。その頃は朝型生活って全然イメージできていなかったんですけど、いざ子どもをもつと、実際にそうせざるおえない部分がたくさんあって、あの時いただいたアドバイスを今まさにかみしめています。

安藤:なるほど。そのような利用のされ方はとてもいいですよね。ところで、徳永さんは、仕事以外の時間はどのようにお過ごしですか?

徳永:早く帰ってきた時は、気分転換もかねて料理を作ることが多いですね。すぐそこにスーパーがあって、できあいのものがいっぱい売っているのですが、飽きてきてしまって。ちょっと手間がかかっても、野菜炒めとか自分で作ったほうがはるかにおいしいし健康的なので、続けています。

安藤:料理はもともとお好きなんですか?

徳永:嫌いじゃないですね。私はずっと半導体に携わっていたのですが、半導体って、プロセスが何百工程もきっちりあって、それをきちんと作りあげていくのですが、その感じが料理と似ているんですよね。

「社員を大事にするかしないか」で勝負が決まる

安藤:なるほど。“半導体クッキング”ですね(笑)。ご自身が楽しめる趣味があると、老後も楽しみですね。今後、日本の企業もダイバーシティをどんどん進めていかないと生き残れないという考えもありますが、徳永さんのお考えを聞かせてください。

徳永:当社では、女性管理職比率の増加をめざし、次世代の女性のキャリア意識醸成、障がい者活躍推進をはじめダイバーシティを積極的に推進しています。これらが世の中にも認められているのは大変いいことだと思いますね。最初にお話しましたように、企業の成長は、「社員を大事にするかしないか」など、そういうところで勝負が決まると思うんです。欧米と対等に勝負して、グローバルに勝ち残っていかないといけないことを考えると、人財活用の面でも欧米にひけをとらないような世界にならないといけないですよね。われわれが小さい時みたいな「亭主関白」の時代ではないですからね、今は。

安藤:全くその通りです。われわれは今、徳永さんのような模範的なイクボス像や育成のノウハウを、企業の枠を超えて共有できるような取り組みを進めています。主任クラスなどいわゆる中間層のボスには、これからどんなことを伝えていきたいですか?

徳永:新人時代は自分の良い所を出すことに全力をつくし、ピカピカ光って目立ってほしいですね。でも、いつまでもそれじゃ困るんです。中間管理職になってもそのままでいくと、そこで一度でも信頼を失うことをしてしまうとチーム全体がくずれていきますから。だからこそ、中間管理職には、「自分の悪いところをださない」と心がけることが非常に大事になってくると思います。これは家庭でも通じることですよね。奥さんや子どもに対して、一度でも信頼を失うと、家庭はくずれていってしまうと思います。

安藤:そうです。家庭も経営ですからね。不祥事おこしちゃまずいですから(笑)。
徳永さんがおっしゃるような働き方をたくさんの方が理解してくれればいいのですが、
亭主関白の思想で、「会社中心の生活は決して悪くない」と思っている人もまだまだいるんですよね。

徳永:そうですね。そのような社員をここに招いて、自分の生い立ちや親父の話をすることもありますね。

安藤:振り返るって大事です。その中で何か気づいてもらって、変わるといいですね。

徳永:徐々に変わっていくのではないでしょうか。確かに昔は、会社でいつもどなりちらして絶対服従型の精神論をふりかざす“軍隊型”の上司っていましたよね。でも、今ではそれはとおらないですよ。パワーハラスメントを見る目も厳しくなってきていますから、そういう意味から考えると、まず仕事のやり方を変えていかないとだめですよね。昔は部下を人前でどなりつけるって当たり前だったですけど、今はそれをやってはいけないですから。

安藤:徳永さんは、部下を叱る時は、当然別室によんでしかり、ほめる時はみんなの前でほめていらっしゃるんですよね。「職場環境を作る」という意味で、工夫されている所はありますか?

(取材に同席していた企画部の佐藤さん):徳永の役員室は、フロアの真ん中にあるんです。雰囲気も閉鎖的でなく、だれもが入りやすいような設計になっているんです。呼ばれて部屋に入る社員にとってもみても、隔離されるような感じでは全くなく、オープンなんですよ。

安藤:それは象徴的ですね。

徳永:オフィスビルが古くて暗めなので、なんとか明るい雰囲気にできないかと思ったんです。オフィス内の僕の部屋にバーンと仕切りが立っていると、職場の雰囲気がますます暗くなってしまいますよね。ですので、仕切りをなるべく少なくして、ドアもつけず、開放的で風通しのよい場所にしたかったんです。

安藤:なるほど。そういう環境って、社員が入りやすいですよね。僕の知り合いの校長先生は、普通は2階にある校長室をあえて1階の用務員さんがいるような場所にもってきたんです。そうすることで、子どもたちも自由に出入りできてコミュニケーションがとれるし、学校中のいろんな情報がすぐに入ってきて、問題も解決しやすいとおっしゃっていました。

徳永:やはり、雰囲気は大切ですよね。僕自身、部下たちに僕がどういうスタンスで仕事をしているのかを理解して欲しいという気持ちが常にあります。僕は自分で自分の悪いところがわかっていますので、そこを起点に、職場環境はこうしたらいいんじゃないかなど、いろいろ考えてこのようにしました。

安藤:素晴らしい。鍛冶さんからみて徳永さんはイクボスですか?

鍛冶:まさにイクボスです。直接お話する機会はなかなかないのですが、徳永さんが発信するメッセージが、事業部長から、本部長、課長とぶれなく伝わってくるのがすごくありがたいですね。上からの雰囲気ってすごく大切だと思うので。

安藤 組織の一番上にいるボスが、徳永さんのような方だと安心ですよね。御社は、ワーク・ライフ・バランスに悩む部下におこりがちな問題について管理職に対応策を回答してもらい、それをまとめた「イクボスブック」を社内で配布するべく制作するなど、積極的にイクボス育成を行っていますね。今後のさらなる取り組みに期待しています。今日はどうもありがとうございました。

(筆・長島ともこ)