[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第41回】髙山健司さん(西部ガス株式会社 執行役員 人事労政部長)

[公開日] [最終更新日]2020/06/13

【インタビュー】髙山健司さん(西部ガス株式会社 執行役員 人事労政部長)
【インタビュー】髙山健司さん(西部ガス株式会社 執行役員 人事労政部長)
今回のイクボスロールモデルインタビューは西部ガスの執行役員人事労政部長として人材開発室で陣頭指揮を執る髙山健司さん。今年4月にイクボス宣言を行い、「イクボス企業同盟」にも加盟した同社。今回イクボス宣言を行うに至った経緯や社員がいきいきと活躍できる職場環境づくりをどのように進めているのかを伺った。

「意識改革」から「風土改革」へ。
学んだことを「見える化」し、職場に変化を

安藤:御社が取り組んでいらっしゃるプランを教えていただけますか。

髙山:今後、西部ガスでダイバーシティー・多様性を持った働き方を取り入れていく先駆けとして、「女性活躍推進計画」に10年計画で取り組んでいます。平成24年から26年までが第1期。今年度から第2期の活動に入ります。全体で3期に分けています。

第1期は「意識改革」。管理職や、当事者である女性の意識改革を中心に、お互いの意識のずれを埋めるための研修を3年間行い、300人近くが受講しました。
第2期は、「意識改革」から「風土改革」へ。1期に学んだことを「見える化」する取り組みをし、実際に職場に変化を起こそうと考えています。その弾みにしたいという強い想いで、今回のイクボス宣言に至った次第です。

安藤:現在、社員に占める女性の割合はどのくらいですか。

髙山:12%です。約1,600人の内約200名。最近の新卒採用の女性の割合は2割を超えており、今後も確実にその割合を維持していこうと思っております。

安藤:女性の管理職の割合は。

髙山:女性の管理職は3名で、1%です。この運動を始めた2014年は1名でした。女性管理職となると、その下のリーダー層、係長層の母集団を増やしていく必要があります。3年前は4%で30名だった母集団が、3年間で6%、41名まで増えました。「女性活躍推進計画」の1期、2期を通して、その数を増やす活動にも取り組んでいます。

安藤:何年に何%という目標はあるのですか。

髙山:10年間で女性管理職10人が目標ですが、少しでも前倒しで達成できたらと。

安藤:部長からご覧になって最近の女性のキャリア志向といいますか、意欲はどうですか。

髙山:男性と比べると、出産など自分のライフイベントがかなり多いですが、その中でも会社で中心になってしっかり働いていきたいと考える女性は確実に増えています。その為に会社でできるサポート、柔軟な働き方などを支援していく制度を作っていく。今以上に、もっと充実させていきたいと思っております。

具体的には、育休後に選択できる、小学校入学までの時短勤務。それももう少し伸ばしたいなという気持ちがあります。テレワークの制度は現在はありませんが、「女性活躍推進計画」の中で、女性が会社に色々と提言を出す活動があり、今年はテレワークも会社に提案したいという動きがあるんですね。管理職の意識が変われば、テレワークも導入できる風土が出来てくるかなと思っています。
効率的な働き方をうまく導入していくことで、残業や長時間労働が減ってきて、誰でも働きやすい環境が弊社の中にもできてくればいいなと思います。

安藤:間接業務である「会議」が多くて長い、非常に形式的になっているなど、そういった部分はどうですか。

髙山:5年前から「仕事リフォーム推進活動」というものに取り組んでいます。ゼロベースで各部門の仕事を見直すことで生産性を上げ、結果としてワークライフバランスを充実させていこうとする取組みです。業務の一部を改善するだけにとどまらず、不必要なものをあぶり出し、思い切って廃止するところまで進める。そんな決意を持った活動を行っています。

安藤:何か成果は出ていますか。

髙山:ええ、確実に成果が出ています。この5年間で時間外労働が25%減り、休日が増えました。総労働時間は50時間短縮されました。

安藤:5年間で50時間減ったのですか?

髙山:ええ、1,900時間台が1,800時間台になりました。着実に成果が出ています。実は今回のイクボス宣言の中にあえて「仕事リフォームの推進」を入れさせていただいたのは、そこのネジをもう1回巻きたくて。

安藤:まだ無駄があると?

髙山:テレワークや業務フローの見直しなど、また新たな次元ごとの改善、改廃ができるんじゃないかと思っています。弊社はお客さまに選ばれる企業にならないといけない。私が1番やりたいのは、会社の各段階での判断に、女性を含む多様な働き方をしている人の意見が当事者として入ること。それがお客さまが望んでいることを理解し、応えることにつながる。社内の多様性を活かすことが、お客さまにも多様なサービス提供することになる。まさにダイバーシティ経営の実践が、選ばれる企業になるための必須事項だと思っています。

ワークライフバランスと生産性は表裏一体。
職責を全うしてこそ働きやすさは担保できる

安藤:女性の育休取得は当たり前になってきました。最近東京辺りでは、男性学卒者が男性の育休取得率の開示を求めるようになってきているのですが、九州ではいかがですか。

髙山:今のところはないです。ただ、休暇や育休制度、介護休暇制度などに関する質問は最近多いですね。就活段階で、福利厚生の内容が企業を選択する1つの指標となっていることは間違いないと思います。

安藤:最近の若い人たちは、会社に自分の人生を捧げる、みたいな感覚は薄れてきていると思うのですが。

髙山:昔は経済的な利益をその会社からどれだけ得られるかというのが一番大きかったような気がしますが、今の学生さんは、自分がその会社に入ってやりたいことができるかどうか、自分が働きやすい会社かどうかを重要視します。そのための制度が整っているかどうかが見られているな、という感じはしていますね。

安藤:制度はどの企業もしっかりと作っている。ただ問題はそれを使える風土がない。その風土というか社内の空気を作っているのが上司です。学生は会社を選べても、上司は選べない。配属先の上司がイクボスかダメボスかで随分違うと思います。離職率もたぶん違うはず。我々は企業における「イクボスの標準化」を狙っています。新卒がどの部署に配属されても部下のワークとライフを支援し、働きやすい職場環境を作っているイクボスがいることが大事です。

髙山:まさに今の学生さんというのは会社に対して「働きやすさ」を求めているのは間違いないですね。その中にはイクボスの存在というのが大きいなと。

ただ、いろんな企業の悩みで聞くんですけれども、ややもすると権利主張ばっかりする社員が増えてしまう。企業なので最終的には企業価値や利益を上げていかなければならない。そこは勘違いしないようにしないといけないですね。ワークライフバランスと生産性は表裏一体だと思っています。職責を全うしてこそ働きやすさは担保できる。また、ダイバーシティー、多様性のある人間が活躍できる職場で生産性を上げる、という意識を上司部下共に持って欲しいですね。今後、今までみたいに言われたことをただやるだけのぶら下がり社員はAIにとって変わられる。

安藤: AIに勝てる人材は何なのか、上司自らも含めて考えていく時代に入っているのではないかと。それが何かその会社の持続性になると思いますし、そういう会社が増えれば日本全体の経済も良くなっていくでしょう。

イクボス誘導作戦。
上司自らがライフを楽しみ、発信する。

安藤:髙山部長はご趣味も多彩のようですけれども。

髙山:まさに5年位前から家庭菜園を始めまして。土をいじるとものすごく安心というか、リフレッシュするんです。土の匂いに癒されて。あと収穫があるというのはいいですね。いろんな実りがある。実益も兼ねていると言うとおかしいですが、達成感があります。

安藤:今、何を作ってるんですか?

髙山:じゃがいもとか根菜類が多かったんですけれども、これから少し葉物ですとかナスとかきゅうりとかそういったものに挑戦しようかなと思っています。

安藤:そういうことを発信されています?ご自身で、SNSとかで。

髙山:そこはまだやってないですね。

安藤:これ是非、オススメです。発信することでコミニケーションが発生すると思います。若い世代は当たり前になっていますが、部下ってそういうの結構見ています。

イクボスの制度を作ったり宣言したりするのは誰でもできるんですよ。実は部下たちは、そこから先の本当の姿を見ていて。
休む事はマイナスじゃなく、リフレッシュであり、インプットであり、何か自分のライフが充実していく時間なんだということを上司自らが実践し、語っていく。それをやった人がイクボスとして輝くかな、という気がしています。

髙山:弊社の社長はすごく多趣味で、大きいバイクに乗ったり、ロードバイクにも乗ったり、庭の草取りも徹底してやるんだと言ってました。本格的な登山もされますね。アルプスとかに登られているので。ライフを楽しまれてます。

安藤:社長がライフを楽しんでいるところ、社員にも教えてあげたほうがいいですね。うちのトップかっこいいじゃん、みたいな。ある種のイクボスの誘導作戦。まさに管理職になりたがらない若者が増えている中で、「自分もあのような管理職、上司になりたいなぁ」と思わせるような、背中で自分の人生を語れるような上司が増えて欲しいなと思いますね。

髙山:イクボス宣言して、これからエンジンをふかしていくタイミングで、うちの会社も変わった、という情報を発信をしていきたいです。

多様な人材の声を仕事に活かす。
そして「選ばれる企業」に

安藤:髙山部長、子育ては?

髙山:子育ては終わってます。家で自分がしなくちゃいけない役割分担はありますが。

安藤:イクボスが定年になると、「イクジイ」になるんです。「イクメン」を目指すと、やがて必然的にPTAや地域ボランティアなどに関わる「イキメン(地域で活躍する男性)」になり、やがて会社でイクメンを指導する「イクボス」になります。さらに歳を重ねるとそれは「イクジイ(孫世代を支援する高齢者)」になり、最後は「ケアメン」として妻を介護する男性になる。「イクメンの5段活用」と僕は言っています。

男性は孫ができるとそれまでの罪滅ぼしのように育児をする人がいます。逆に、息子や娘が結婚しなくて、おじいちゃんになれない人も増えています。

髙山:僕はそれを心配しています。

安藤:そういう時は地域の子どもたちを呼んで、ベイゴマ教えたり。それも「イクジイ」の役割だと思っています。これから人生100年時代と言われる中で、男性も仕事だけじゃなくて、何か地域に貢献するとか、ボランティアでNPOに入ってみるとか。そういうことにも現役の時から少し首をつっこんでやっておく。サードプレイスといって、定年後の第三の役割みたいな。職場と違う場所に自分の居場所や役割を作っておかないと、単なる家庭の中の濡れ落ち葉になってしまう。

髙山:そこまで考えが及ばない管理職の人が多いと思いますね。本当にワークライフバランスというものを充実させておかないと。

安藤:ある会社は業務と関係のない社外のセミナーとかボランティア活動をポイント化しているんですよ。ポイント貯がまると人事考課に反映される。やりなさいと言ってもやらないので、そういうインセンティブをつける。最初は腰が重いんだけれど、行き始めるとこういうの面白いなぁと。ドンドンとその多様性に目が向かったり、逆にそれが本業に活きていくようなことが中にはあるかもしれない

髙山:社員は本当に一生懸命仕事をやるんです。やめろと言ってもやめない。だから、プレミアムフライデーみたいな制度が必要で。ふたを開けたらその初回、フレックスを取る人がもの凄く増えたんです。おもしろいですよね。取っていいよと言ったら取るんですよ。不思議でした。そんなにとらないと思っていたんですが。
もしかすると定着するかもしれませんね、このプレミアムフライデーも。制度を作ってしまえば、割と使いやすい。

安藤:みなさん、他社の動きを気にされるので。他社のうまくいった事例から学んで、推進していっているところもありますね。そういう意味で、同盟を作ったので。こういうのは自社一社だけじゃなかなか進まないですね。

髙山:他社がやっているということに対する安心感があるんですね。いいかどうか別ですけどね。

安藤:2年前に全くだった企業が今、働き方改革にこぞって参入してきている。やらないとまずいなみたいな空気になってきていますね。

髙山:いいですよね、形から入るというところがあっても。

安藤:ただ、アレンジメントが必要ですね。イクボスも見本がいて、その通りやればいいのではなくて。やはり組織が抱えている課題も部下のタイプもいろいろですから、それを自分なりにアレンジメントできて、みんなが笑顔で働けるようなルールだったり、文化だったり、ムードを作っていくというのがイクボスの仕事なのかな、と僕は思っていて。

髙山:おっしゃるとおりです。業務改善もそうなんですが、自分のワークライフバランスを自ら考え、実行する、というのもうちのイクボス宣言の根底にあります。

安藤:主体的に自立的に、ですね。人生100年時代を現役でやっていくには今こそ自己改革をできるボス。社会の中で生き残る為の自分のバリューを高めていくことはとても重要なライフ戦略だと僕は思います。
髙山部長はもうご自身がされているので、当たり前だと思いますが。

髙山:実は昨日、新入社員と40キロ歩いてきました。外に出て、みんなで歩いていると、自然に上司部下の垣根も低くなるんですね。会話というか。そういうのが仕事の場でも出来ていくといいなと。

安藤:風通しも良くなりますよね。言いやすい環境。優れたイクボスは、常にフラットな関係ができているかをみる。上司でも部下でも立場を超えて、本当にこれはお客さまにとっていいのかとか、働く人たちにとっていいのかということを本気で議論できる関係がとても重要で。

髙山:おっしゃるとおりで。その中にはやはり女性がいて、時短の勤務者がいて、いろんな方がいて。多様な人材の声をうまく吸い上げて、それを仕事に活かしていく。イクボスという役割はものすごく大変だけど、ものすごく大事ですね。

これからはそれができる企業がお客さまから選ばれる企業になるのでしょうね。

安藤:西部ガスさんも九州でそのフロントランナーになっていただけるように我々も協力できるところはしていきたいと思いますので、是非今後ともよろしくお願いいたします。