[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第19回】澁谷耕一さん(リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役)

[公開日] [最終更新日]2020/06/13



イクボス・ロールモデルインタビュー第19回は、リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役の澁谷耕一さん。

興銀マンとしてばりばり働いていたが、妻の病死をきっかけに子ども3人の育児と仕事の両立のため起業を決意。銀行を退職し、亡き妻の愛称「リッキー」を社名とした会社を起こした。妻の死を通してワークライフバランスの大切さに気づき、出産や育児など社員のライフステージの変化に合わせたフレキシブルな働き方を推進している。社員の生産性を上げて業績アップを計り、基軸となる中小企業向けのコンサルティング事業に加え食品支援事業など幅広い事業を手がけつつも、「やりがいがあるのは仕事よりも子育て」ときっぱり言い切る澁谷社長に、イクボスの価値観や今後の展望などについて伺った。(インタビュー:NPO法人ファザーリング・ジャパン代表 安藤哲也)

〈澁谷耕一さん プロフィール〉
1954年北海道生まれ。一橋大学卒業後、日本興業銀行に入行。香港支店副支店長、みずほ証券公開営業部長などをつとめる。2002年、同社を退職し、中小企業向けのコンサルティング業務を行う「リッキービジネスソリューション株式会社」を設立。2013年4月には神奈川県政策顧問にも就任。起業時は高3、高1、小4だった子どもたちも全員成人し、現在は孫も2人。忙しい合間をぬって、子どもたちと過ごす時間を今でも大切にしている。

妻の死をきっかけに銀行員を辞め、48歳で起業

安藤:澁谷社長は銀行員を辞め2002年に起業されたそうですが、きっかけを教えてください。

澁谷:大学卒業後、日本興業銀行に入行し、ニューヨーク支店などの勤務を経た後、香港支店の副支店長もつとめていました。私自身はこのままずっと銀行員としてバリバリ働き続けていきたいと思っていたのですが、妻ががんを患い、2001年2月、45歳という若さで先立たれてしまったんです。あとには当時高校3年の長男、高校1年の次男、小学4年の長女が残されました。まだ小4で幼い下の娘に寂しい思いをさせたまま今の仕事を続けられない、育児と仕事を両立できる仕事を、と考え、48歳で自宅での起業を決めたのです。

他にやりたい仕事があって銀行員を辞めたわけではないので、これから何をやって食べていくかいろいろ悩んだのですが、13年前、日本はデフレ経済で、中小企業が銀行からお金をかりるのが難しい時代でした。中小企業も銀行が納得するような、融資に必要な事業計画書が作れず、資金を借りることができない状態だったのです。そこで、銀行と中小企業のコミュニケーションギャップを埋めるために、中小企業に事業計画書の作成を助言するだけでなく、企業の強みやどこに無駄があるのかなどの要素も盛り込んだ計画書を書くことで、経営をどういう方向にもっていくか、戦略立案の助言を行うビジネスを始めました。

安藤:失意の底から立ち上がり、起業して順調に業績を伸ばされ、現在は食品支援事業も展開されているのですね。

澁谷:そうですね。2006年に、地方銀行と共催で、食品製造業者と食品バイヤーの出会いの場を提供する展示会「地方銀行フードセレクション」を始めました。以前から地方銀行が地元のバイヤーをよび、取引先である食品製造業者や農水畜産業者の商品を紹介する取り組みを行っていたため、これを全国規模で展開しようと考えたのです。おかげさまで好評を博し、今年は第10回目を迎えるのですが、参加銀行は41行、企業は600社に増えました。この取り組みは地域の食の交流と活性化にもつながり、当社では、ここで出合った地域の食品の通信販売業務も行っています。


安藤:御社の社員数は?

澁谷:22人です。女性の割合が半分くらいで、子育て中のお母さんが多いですね。女性社員は出産すると育児休暇を取得し、2、3年で戻ってくるパターンが多いですね。復帰してからは、すぐにフルタイムで働くのでなく、最初は週に1日、勤務時間は10時~15時からスタートし、子どもの成長に従って勤務日数や勤務時間を少しずつ増やしていくなど柔軟な働き方を積極的に取り入れています。

安藤:ライフステージの変化に応じて働き方が変えられるのは、ママ社員にとっては非常にありがたい制度ですね。ところで澁谷さんは、銀行員時代はどのような働き方だったのですか?

澁谷:銀行員時代は、いわゆる「猛烈サラリーマン」でしたよ。仕事中心で、家事や育児は妻にまかせっぱなしでしたから。ただ、ひとつ驚いたのは、ニューヨーク支店時代のアメリカ人の働き方です。当時の日本のビジネスマンは残業につぐ残業の毎日だというのに、アメリカのビジネスマンは、夕方5時に帰って家族と一緒にごはんを食べたりテニスを楽しんだりしているんです。奥さんも働いているけれど、「ダブルインカム・ノーキッズ」ではなく「ダブルインカム・ウイズキッズ」みたいな発想で、奥さんと連携して子育てしながら働く姿はカルチャーショックでしたね。彼らに影響を受けて、私もニューヨーク支店時代は週末家族にパスタを作ったり、その頃コロンビア大学の大学院に通って勉強していた妻が不在の時には、子ども達を動物園に連れていったりしていました。でも、その後再び日本に帰国してからは仕事一辺倒で、家事や育児の95%は妻にまかせていましたね。

安藤:ワークライフバランスの大切さに気づいたのはいつ頃ですか?

澁谷:やはり、妻が亡くなってからですね。亡くなってすぐのころはまだ銀行に勤めていたのですが、当時、一番下の娘はまだ小3ですから、学校で熱を出すこともあったわけです。すると、地方に出張中でも会議中でも学校から電話がかかってきて「早くお子さんを迎えに来てください」となるわけです。近所の方に助けてもらったりもしましたが、いろいろ大変でしたね。

あともうひとつ、当時は娘の塾のお迎えがあるので定時の5時半に帰るようにしていたのですが、帰ろうとすると急に「これから会議やるよ」と言われることもありまして……。娘が待っているのにどうしようって、これも本当に困りましたね。今まで妻が家にいてくれたから、夜の9時、10時までずるずる仕事して、時にはその後飲みに行ったりしていたのが全くできなくなり、これまでいかに自分が生産性のない仕事をしていたかわかりました。と同時に、仕事と育児を両立させるには、ワークライフバランスの発想が必要であることを痛感しました。

安藤:その時の経験が、今の会社での社員のマネジメントに生きているわけですね。

澁谷:まさにそうです。子どものいる社員の気持ちがわかるから、彼女たちが困るようなことはしないようにしています。ですから、当社では、午後6時から突然ミーティングを始めるようなことは一切しません(笑)。また、小さい子はすぐに熱を出しますので、子ども園で発熱して突然お迎えに行かなくてはならなくなった時などは、早退したり休んだりしてもらっていいよと常に言っています。

安藤:イクボスですね。でも、御社には独身の社員の方もいらっしゃいますよね。「ママ社員ばかり優遇されて」みたいな意見が出たりはしないのですか?

澁谷:ママでもある社員は、自分がいわゆるイレギュラーな働き方をしていることを自覚していて、皆に迷惑をかけられないぶんしっかり仕事をしようという意識の高い方が多いんです。業務が滞るようなことがないので、そのような不満は出てこないですね。

安藤:チームを組んで仕事をするというよりも、一人ひとりの仕事が決まっていて、スタッフ同士がお互いのスケジュールを共有しながら仕事を進めていくのですね。

澁谷:そうですね。男性社員の中にも子育て中の社員がいるのですが、やはり子どもがまだ小さいので結構熱を出すんです。でも彼らの奥さんもフルタイム勤務で忙しく、簡単に会社を休めない女性が多いので、私から彼らに「子どもが体調を崩した時はいつ休んでもいいよ」と言っています。先日も、午前の会議中、男性社員あてに保育園からお迎えコールが来ました。連絡を受けた彼はそのまま保育園にお迎えに行き、フルタイムで働く奥さんと連絡をとって午後3時に看病を交替し、夕方社に戻って仕事していましたね。ご主人がぱっと動けるので奥さんもすごく喜んでくれて、「私がこうして仕事を続けていられるのは、澁谷社長のおかげです」って私に感謝の手紙を送ってくれるんです。

安藤:違う会社の社員からも感謝されちゃう(笑)って、うれしいですよね。

生活者目線で考える“共感力”が、これからのビジネスを支える

澁谷:そうですね。会社でフレキシビリティを持つと、いろんな立場の人が働けるんです。また、うちの会社は女性社員、ママ社員の比率が高まりつつあるのですが、ママ社員が増えると生産性が上がるんですよね。どうしてかというと、お母さんたちは子どものお迎えや夕食作りがあるから、効率良く仕事をして6時前にスパッと帰るんです。すると、男性社員もそれにつられて早く帰るようになり、結果的に生産性が上がるんです。女性も男性も、プライオリティを常に考えながらしっかり仕事をして早く帰宅し、家族と過ごす時間やプライベートを楽しむ時間を大切に過ごしてほしいと切に思います。私は37年半仕事してきましたけど、「子育てと仕事、どっちがやりがいありましたか?」って聞かれたら、迷わず「子育てです」と答えますね。

安藤:なるほど。

澁谷:会社を始めて間もない頃、塾に通う娘のために、私は毎日手づくりの弁当をもたせていました。無理せずコンビニなどで買ってすまさせればいいという考え方もありましたが、塾で友達といっしょに食べる時、娘にひけめを感じてほしくなかったし、お父さんも一生懸命がんばっているんだということを伝えたかったのです。で、塾が終わる時間に駅の改札口のホームで娘の帰りを待っていると、娘が「パパ!」って駆け寄ってきて、私にぎゅっと抱きつくんです。なんて幸せなんだって。本当に、あの感動は忘れられないですよね。妻が亡くなり、ひとり親の家庭になって初めて、今までに感じたことのない子育ての大きな喜びを知ることができたんです。


安藤:子育ては期間限定ですから、楽しめる時期に楽しみたいですよね。澁谷さんのようなイクボスの元で働く社員の皆さんは、職場の理解もあり、ワークライフバランスを取り入れた働き方ができており、まさにフロントランナーです。
高齢化社会の日本は今後、親の介護の問題も出てきます。介護はボス世代自らの課題でもあるし、独身やお子さんがいない社員の方でも介護の必要性が生じることも当然あるわけです。育児だけでなく親の介護など、社員のさまざまなライフステージの変化に適応する職場環境は、どの会社にもないといけないと思うのですが、実際のところ、大企業の中には、長年培ってきた慣習や風土をいきなりは変えられない会社もあるようですね。中小企業も、「うちは中小だからワークライフバランスを取り入れるのは不可能」という方もいらっしゃいますがそんなことはないです。中小だからこそ、御社のようにフレキシブルな働き方を可能にしている会社もあるのですから。

澁谷:本当にそう思います。中小企業のいいところは、例えば、トップである僕が「いいよ」っていえばOKなので、素早い決断で生産性を上げることができることだと思います。時代は、長時間労働から短時間労働へと確実に変わってきています。これからは、組織の一方的な論理だけで物事を押し進めていくというよりも、自らの子育て体験を振り返り、家事や育児をはじめとするさまざまな生活シーンで養われる、いわゆる生活者目線で考える“共感力”のようなものが、ビジネスを支えていくような気がしますね。

安藤:生活者目線で考えたいろんなアイディアを社内で自由に発言でき、よいアイディアはすぐに具現化できるような御社の環境は、「自分たちで考えたことが形になっていく」という喜びを味わえますよね。反面、大企業の社員を見ていると、「自分の仕事に退屈している」という人が増えてきてしまっているように感じることがあります。上から言われたことしかできない・やらない。管理職も、数字をもたされているのでリスクを考えてしまって部下の裁量に任せられない。そうなると、働く意欲もだんだんそがれてきて、企業の成長力を削いでいます。


澁谷:確かにそうですね。話は少しそれますが、2013年から神奈川県の政策顧問の仕事もしているのですが、女性の働き方について県の方と話していると、「子育てして3年もたつと、職場復帰できないですよね」と当然のようにおっしゃいます。そのたびに「いや、できます。そんな風に思わないほうがいいですよ」ってお話しています。今はネットなどでいろんな情報が入手できますので、本人に「復帰したい」という意識さえあれば、いつでもできますよね。子育てを経験すると人間的に本当に成長できますし、視野も広まります。それをぜひ、社会に生かしてほしいんです。

安藤:僕自身もそうでしたが、父親となって子育てに関わるようになると、地域とのつながりができます。地域に出ると、会社とは違うプレーヤーがたくさんいて、でも、こういう人たちと共感しながら何かを一緒にやっていくことで、人間的にも大きく成長できると思うんです。僕は子どもが通う小学校のPTA会長を2年つとめました。僕以外の役員はお母さんばかりで、その中に入ってまとめるのは大変なこともありましたが、子どもたちの様子もよくわかるし、先生たちと仲良くなって密度の濃いコミュニケーションをとりながら活動させてもらって、地域での豊かな時間を過ごすことができました。

澁谷:私もPTAをやったのですが、入ってみたらやはり、僕以外の役員さんは皆お母さんでしたね(笑)。あれはすごいですよね。お父さんも2、3人いればいいのにと思いました。お母さん同士だからなのか、話し合いをしても中々決まらなくて。「澁谷君のお父さんはどう思われますか?」って聞かれて意見を言うと、ぱっとそれに決まるんですよね。そこで「次の会議から議長やってもらえますか?」とお願いされたこともありました(笑)。

当社では、男性社員にも「PTAなど地域活動もどんどんやってください」と言っています。男性社員が結婚する時に、私は新郎の上司として結婚式でスピーチするのですが、今申し上げたような話をするわけですよ。「奥様、この先子どもができて、お子さんが熱を出したり、PTAなど地域活動に参加したりする場合は、いつご主人に休んでもらってもいいですよ。私も応援していますから」って言うんです。すると、新郎側だけでなく、新婦側からも拍手がおこるんです(笑)。

安藤:いいですね。昔は上司のスピーチって、「○○君は将来の支店長候補として……」みたいな堅苦しい感じでしたよね(笑)。男性も、仕事で能力のある方は、お金にはならないけど、自分の能力を地域に還元するという意味で、どんどんPTA活動をしてほしいと思います。ファザーリングジャパンでは、パパ会員に「パパ達も、これから管理職になるんだったら一度はPTA会長やっておいたほうが仕事でも有効なマネジメント能力あがるからやってみれば?」ってすすめています。「MBAとるのはお金かかるけど、PTAはタダでできるよ」って(笑)。そのせいか、現在、会員500人のうち、PTA会長経験者は30~40人はいます。それも皆、立候補で。でも地域活動するためにも必要なのはやはり、ワークライフバランスなんですよね。自らの働き方を変えて時間を作り、余裕をもって取り組まないとアップアップになっちゃいますからね。

父親には「抵抗できない強さ」が必要

澁谷:イクボスとちょっと離れてしまうのですが、最近ちょっと、男性が弱いと思うんです。傷つきやすくリスクを恐れるというか。たとえば会社で知らない人に電話をかけてアポをとる仕事があるとすると、女性は相手に何を言われてもがんがん進めるのですが、男性は、相手に「今忙しいから」などと言われてしまうとそこで「だめだ……」ってしゅんとなっちゃう。これはなぜかって考えると、これまで父親が育児にあまり関わってこなかったからじゃないかなって思ったんです。父親が仕事で忙しいぶん育児のほとんどは母親が担ってきたわけですけど、母親って、女の子に対しては厳しいぶん男の子には甘い傾向があるじゃないですか。その名残りが大人になっても残ってしまって、目の前の困難を乗り越えられないのかな、と。

安藤:日本はひと昔前まで、父親がバリバリ外で働き、家にはお母さんしかいなかった。この副作用が、そういう形で出てきているのかもしれませんね。ファザーリングジャパンでも、ママたちにパパについてのアンケートをとると、「いいパートナーだけど、いい父親ではない」という意見が結構多いんです。イクメンなんだけど、子どもに対して甘いとか、過保護すぎるとかママが言ってるわけです。澁谷さんがおっしゃったような、本当の意味で自立できていない社員は、会社側としても困ってしまいますよね。ちょっとつらいことがあっても乗り越えていけるというような強さを育むには、子どもが小さい頃から父親の導きが重要かと。かつての支配的な父親の権力じゃなくて、子どもの内発性を高める「しなやかな父性」のようなものがこれから必要になってくると思います。

澁谷:そうですね。父親って、「抵抗できない強さ」があったほうがいいと思います。

安藤:これから日本は、団塊の世代が2025年頃までに後期高齢者に達することにより、介護や医療など社会保障費の急増が懸念される「2025年問題」と向き合っていくことになります。寿命もますます伸びていて、育児を積極的に行う「イクメンの時代」から家族の介護を担う「ケアメンの時代」に入っていきますので、今のうちに、男性社員の育休などがスタンダード化していた方が、介護休暇もとりやすくなるのではないかと思っています。育児や介護など家族とかかわりあいながらも、仕事とうまく両立できるような仕組みづくりが不可欠ですよね。今後の御社のビジョンを教えてください。

澁谷:やはり、社会がこれだけ多様化してきてしかも変わってきているじゃないですか。ビジネスにおいても、求められる能力が変わってきていると思います。これから求められるのは、主体的に問題を解決できる能力や、ゼロから1をつくりあげる創造性やクリエイティビティ、他人の喜びや悲しみに共感できる能力、将来を予測する能力だと思うんです。このような能力を養うにはやはり、「会社」の中だけではなく「社会」と付き合うこと。子育ての経験や地域とのかかわりなどが、その人自身の能力を高めていくと思います。企業の大小にかかわらず、子育て、介護、福祉とか、そういったところに日本の将来のビジネスのチャンスがたくさんあると思うんです。だからこそ、私にもできることがたくさんあるんです。当社のような小さな会社でも、職場環境を整えて一人でも多くの社員に能力を発揮してもらえると、少しずつ成長してくことができます。

日本はこれから人材難の時代にもなっていきますが、会社にフレキシビリティがあることで、育児や親の介護などでいったん会社を離れた優秀な人材が戻ってきてくれ、会社も成長できるんです。当社でも、現在独身の社員はママ社員が働く姿を見て将来の自分の姿をイメージしながらバリバリ働き、逆に今のママ社員たちは、子どもが大きくなって手がかからなくなったら、会社に戻ってきてバリバリ働く。それによってステージがいれかわりつつ、会社が成長していけたらいいなと思います。

安藤:フレキシビリティは企業のサスティナビリティに繋がります。企業でのイクボスセミナーの時、ボスたちに必ず聞くのは、「あなたのお子さんを、この会社に勤めさせたいですか?」ということです。そこでもし違和感を感じるなら、どこかやり方が違うということだと思います。これから人材難は間違いなく来ますから、御社のようなワークライフマネジメントがしっかりできている会社のほうが、いい人材が確保でき社員が辞めず、業績ものびていくと思います。

澁谷:まったくそのとおりですね。仕事よりも先に、まずは家族ですよ。家庭が安定してないと、仕事は伸びていかないですから。日本は男性ももっと育休をとっていいんです。僕は妻の亡き後、これまでの働き方を変えて、仕事も育児も自分なりに一生懸命やってきました。周りの多くの方から「よくやりましたね」っていわれますけど、これって誰でもできるんですよ。要はやり方だと思います。

安藤:(お隣にいた女性スタッフの)山本さんにとって、澁谷社長はどんなイクボスですか?

山本:私は昨年当社に転職したのですが、社長は女性に理解があるし、不思議なことに、私たち以上に女性の気持ちがわかるんです。女性が喜ぶポイントも知っているし、「こうやったらもっとがんばってくれるんじゃないか」というツボも心得た上で、社員のやりたいことを尊重してやらせてくれるので、私も含めて社員は皆働きやすいと思います。


安藤:転職されてよかったですか?

山本:よかったですね。心の持ち方がすごく変わりました。会社に来るのが楽しいですね。

澁谷:いや、でも彼女もすごく大変だと思いますよ。だって、やりたいことをしながらも責任を追うわけですから。

山本:もちろん大変です。でも教えてもらいながらできるので、日々成長できますよね。成長を期待されているのが感じられるので、頑張れます。私たちにとって満点のイクボスですね。

澁谷:私にとっては、「社員が誰も辞めない」っていうのがありがたいんです。人間関係とか、家庭との両立、育児との両立が原因で辞めてしまうのがいちばん良くないと思いますし、社員にとっても会社にとってもすごいマイナスですよね。だから、うちの社員には、子どもが熱を出した時、精神的な負担を感じずに堂々と休んでほしいんです。「休んでいいですか?」じゃなくて「休みます」でいいんです。

安藤:子どもを第一に考える組織でありたいし、社会でありたいですよね。イクボスは、やさしいだけじゃなくて、人を育てることもできるボスなんです。人を育てると組織も育つし、社会も育つ。フレキシビリティがあることで、育児が中心で思う存分働けない人も、子育てが一段落したらまた戻って働くことで恩返しをしようとするんですよね。そしてまた生産性が上がっていく。澁谷さん、これからも満点のイクボスとして、さらなる飛躍を期待しています。今日はありがとうございました!

(筆・長島ともこ)


澁谷さんのご著書『逆境は飛躍のチャンス』はこちら