[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第11回】小川美里さん(医療法人寿芳会 芳野病院 総務課課長 WLB&ダイバーシティ推進室長)

[公開日] [最終更新日]2020/06/13


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今回のイクボス・インタビューは、北九州の芳野病院にて総務課課長およびWLB&ダイバーシティ推進室長である小川美里さんにお話を伺いました。

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<小川美里さんプロフィール>
36歳。平成14年(2002年)芳野病院に入職。総務部広報、院長秘書など事務方の仕事を続け、今年3月に課長職へ昇任。1児(小学2年生女児)の母。

動揺した内示、新たなチャレンジ

安藤:3月に課長になられたのですが、これは自分から希望してのことだったのですか?

小川: 自分からではなく、お声かけいただき拝命する形でした。ちょうど組織が変わるタイミングで、その時にお話をいただいたのですが、とても驚いてしまって。その場では「分かりました」と返事をしたのですが動揺してしまって、その日、帰宅の道すがら、メンターの方々3人へ次々に電話して、「私に出来ると思いますか?」と質問しました。

すると、「あなたは、ダイバーシティを推進する立場でしょう」というお返事をいただきまして、そこで少し冷静になって、「ああ、そうだった」と考えることが出来ました。でも、自分のこととして消化するのには、少し時間が必要だったという気がします。自分の中では、「40歳ぐらいまでに課長になれたらいいなあ」と漠然と思ってはいたのですが、まさかこんなに早くお話をいただくとは思っていませんでした。

安藤:メンターの方々は外部の方ですか?

小川:そうです。ワークライフバランスやダイバーシティを勉強する中で出会った方々です。動揺した時にすぐに相談出来るというネットワークを持つというのは、とても大事だと思いました。

安藤:外部に、すぐ相談出来るメンターを複数持っている、というのはとても特徴的ですね。現在のお勤め先は、就職先としては何社目ですか?

小川:派遣を入れて4社目です。医療系は初めてでした。もともとはCAになりたくて勉強していたのですが、なかなか採用募集がなくて、接客業を中心に、博覧祭のアテンダントなど自分の興味の赴くままに、いろいろなタイミングとご縁が重なり、12年前に芳野病院に就職しました。

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安藤:ダイバーシティというものが、もともとご自身のテーマとしてあったのですか?

小川:入職してすぐ人事労務担当になったのですが、育休の実績ファイルの中に2枚くらいしか入っていないのを見つけたんです。「国家資格を持っている看護師さんたちが、なぜ辞めてしまうのだろう」と、不思議に思ったんですよね。私自身の母はずっと仕事をしていて、私の中では「おかあさん=働く」という図式が出来上がっていました。

そこでお辞めになる方々に、差し障りの無い範囲内で退職の理由を聞いていると、結婚や出産がきっかけの方もいて、「なぜ”結婚するから”という理由でお辞めになるのですか」と聞くと、皆さん答えが出てこなくなるんです。今からちょうど10年ほど前のことです。

安藤:地域の文化としてまだ残っていたんでしょうかね?東京ではもはやそういう感じはありませんね。会社にもよるでしょうが。

小川:その後も「結婚するので、辞めます」「出産するので、辞めます」と、本当に惜しい方がお辞めになるたびに、もったいないと思っていました。

病院には十種類ほどのクラブ活動があるのですが、平成15年の秋頃、「結婚しても、出産しても、本当は仕事を続けたい」という意見が、ぽろっと出てきたことがあったんです。そこで、「本当は辞めたくない人もいる」ということが分かったんですね。

それから、どうしたら辞めなくて良いのかと、みんなでアイデアを出して行ったら、「院内保育園」「期間限定パート」「ママのかわりにお迎え」など様々な面白い意見が出てきました。それらを書き留めて上司である総務部長に提出したところ、「これなら皆、働き続けられる職場ができるかもしれない」と、すぐに院長へ伝えて下さり、「いろいろアイデアを出してごらん」との返事でした。

それまで、職員同士が意見交換をする場がありませんでしたので自由に意見を交換しあう場として、「職場環境改善提案会議」というものが発足しました。たまたま管理職がいない会だったので、フラットな意見が出やすくて良かったかもしれません。

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安藤:そのころは「ワークライフバランス」という言葉もありませんでしたよね。

小川:そうなんです。その会議では事務局を担当していました。まずは、福岡県の「子育て応援宣言」に登録しよう、ということになり、平成16年に、県内で18番目に登録しました。でも登録直後は具体的な支援策はなく、外部から情報収集を続けて、平成17年施行の次世代法に基づき「時短勤務」や「男性も女性も育休がとれる」など、徐々に支援策を導入していきました。

最初の頃は女性管理職から、「私たちの頃は育休なんて無かった、今の若い世代は甘い」など厳しいご意見を頂くこともありました。

安藤:育休が無かった大変な時代の方々の意見ですね。

小川:もちろん、その世代の方々が道を切り開いて頑張って下さったから今の時代がある、というのは、とても理解出来ます。しかし、その頃は日本の家庭はまだ大家族で、家の中で子どもを預かってくれるおじいちゃんおばあちゃんがいたり、ご近所同士で子どもの面倒を見たりという地縁もあり、誰かが子どもを見てくれる、という体勢があったんですよね。
でも現代では、夫婦だけという家が増え、家の中で子どもの面倒を見てくれる人が誰もいない。地域でも安心して子どもを預けられる場が少ない、という社会的な背景を理解してもらわないと、新しい制度が必要な人たちが安心して使うことが出来ないと思いました。

安藤:どのようにして理解してもらったんですか?


小川:外部より有識者の方に来ていただいて管理職を対象にお話をしていただいたり、全員参加の研修会でワークライフバランス講座をしたりして、あの手この手の活動をしました。また、廊下ですれ違う上司に、「○○さんは、育休から戻られたら、働き方変わりましたよね!」と声をかけるなど、地道に広げて行きました。そして、だんだんと制度も使われ始め、その中からまた改善点を見つけては修正を繰り返して行きました。

平成17年に、病院全体として「ワークライフバランス」という言葉を取り入れることにしたのですが、ちょうどその頃、「職場環境改善提案会議」の仲間全員が産休や育休に入り、会議自体が一旦お休みになってしまいました。メンバーが戻ってきて会議が再開したのが平成19年です。その頃に会議のメンバーに男性が加わり、初めての男性職員の育休取得がありました。それから1年に1件ほどのペースで、男性職員が育休を取得しています。

育休を取得した男性職員のいる職場は、その後様々なことが良くなったりしていますね。「今まではナポリタンしか作れなかったのが、いろいろなパスタを作れるようになった。
何でも入れたら良いのだと気付いた。」という、休暇中の家庭での気付きをきっかけに、職場でも視野が広がり、様々なことに気付くようになったという事例もあります。

安藤:数字的にはいかがですか?

小川:以前の離職票には退職理由を書く欄がありませんでしたので、結婚や出産を理由に辞めたかどうかというのが分からず、調査が出来ないというのがありますが、平成15年以前は1年間に平均1.7人で2件あるかどうか、という状態で、平成12年までさかのぼって調べたのですが、事例があったりなかったりという結果でした。

ただ、院長が福岡県”子育て応援宣言”で子育て支援をする旨を公表した平成16年に、いきなり6人が育休を取得したんです。その後も取得者が続き、それ以降、希望者がほぼ100%すんなり取得するようになりました。それを見ていたら、やっぱりこれまでお辞めになった方達が、ものすごくもったいなかったな、と思いました。

男性も、平成19年に1人育休を取得しました。病院で育児世代の男性となりますとかなり対象者が少ないのですが、それでもだいたい年に1人くらいは取得しています。直近のパーセンテージは30%ほどです。

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安藤:男性でも取りやすい雰囲気になっているんですね。

小川:NHKの番組でも、今年の6月頃に取り上げられました。自分が取得することで後輩に繋げてあげたいということ、子どもが本当に小さいうちしか関われないかもしれないということ、育児を夫婦でしっかり共有したいことなどがあって、育休取得に踏み切ったようです。

この7月に2週間の育休をとった男性の場合は、その職員の上司が当院で2度の育休を経た先輩ママだったのですが、「何でもフォローするから」とかなりサポートをしてくださったらしく、取得した側の男性部下は、「この上司のためなら何でも頑張ろう!」という思いを強くしたそうです。それだけ理解して応援してくれるわけですから、恩も感じるわけです。

その男性が育休から復帰してきた初日に、偶然会ったのですが、目がとてもキラキラしていて、嬉しく思いました。やはり、週末ちょっとだけ家族と関わる、というのとは全く違うので、本当に良かったのだと感じました。

安藤:小川さんたちが取り組んだことが実を結んでいるようですね。かつてはイクボス的な上司も少なく人材が流出していた。でもこれで病院としても人材不足が改善されてよかったですね。

小川:偶然、平成17年頃は、病院としても看護体勢をより手厚いものにしたい、そのために人材を増やしたいというタイミングだったのです。病院として育休取得を応援するという体勢を整えるとともに、様々な媒体でそれが取り上げられるなどして、働きたいと集まってきてくださる人も増えてきたんですよね。病院の場所は交通の便が必ずしも良いというわけではないこともありますし、その中で働きたいと言っていただけるのは、本当にありがたいです。

安藤:かなりフレキシブルに働けるんですか?

小川:シフト数は57あります。所属によって使える勤務パターンも違うのですが、勤務場所によってシフトチェンジを柔軟に取り入れたりして、出来る限り対応しています。ただ、勤務状況を管理する総務は初め、全て手作業で入力していたのでとても大変でした。さすがに無理が出てきて、管理ソフトを導入していただきました。

安藤:それは患者さんにとっても良いことですよね。担当の看護師がコロコロ変わるより、同じ人が担当してくれた方が良いでしょう。

小川:はい。たまたま、妊娠中の看護師と患者様が話しているところに、出くわしたことがあるんです。その時に、患者様が、「必ず戻ってきてね。あなたから元気をもらってるのよ」と話していたんですよね。

安藤:看護師のモチベーションも上がりますよね。病院に保育所はありますか?

小川:ちょうど今作っている所で、もうすぐ完成します。

安藤:それが出来ればまた、かなり復帰が楽になりますね。

小川:ただ、今の所は、夜勤担当者向けに、夜だけの開所となる予定です。

安藤:それだけでもかなりのセイフティーネットになりますね。

小川:試算の段階では不安も大きかったのですが、院長や上司から、「夜間保育所があるということで、職員の安心に繋がるから」とアドバイスをもらいました。

安藤:東京の大学病院などでは、職員向けの保育所がかなり整備されてきているようです。

小川:パートナーが飲食業だったり製造業などで夜勤があったりすると、やはり夜間保育所の存在は大きいです。北九州市は、製造業と病院で、勤めている人の約4割が占められるので、パートナーに夜勤があるという人は多いんです。

安藤:女性が24時間勤務の仕事で勤めていると、自分が妊娠した時に、育児をパートナーに頼みづらいという人が多いという声が多いんですよね。それで、女性が活躍する職場では、パートナーへの育児や家事参加を促す啓蒙活動に力を入れなければならないという流れになってきています。保険会社やエアラインなどもそうですね。

小川:復帰プログラムの中で、「パートナーをイクメンにしよう!」というコンテンツがあり、厚労省のイクメンプロジェクトの資料を使わせていただいたりしています。でも、女性が男性へ言ってもあまりひびかないということもあるんです。そんなとき、同じ男性である先輩パパからのひと言で、考え方がぐっと変わるという新米パパもいると、よく聞きます。育児や家事に参加する男性がいかにカッコいいかを感じてもらえたらいいですよね。ファザーリングジャパンの、男性が男性に向けて発信する取組みは、本当にいいなと思います。

安藤:ありがとうございます。ダイバーシティ推進室に男性職員はいないんですか?

小川:推進室は今は私だけで、そこから他の部署と連携してやっていくという体勢ですので、他部署の男性職員にロールモデルとして活躍してもらいたいと思っています。その方を見て、新入職してくる男性達が将来的に「自分もああなりたい」と希望を持ってくれるようになってきています。

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「課長」になってみて実感すること

安藤:課長になられて半年ですが、マネジメント面ではいかがですか。

小川:想像した以上に難しかったです。内示から異動まで1ヶ月間その間に頭の中だけで悩んでいたのですが、実際になってみたらやるべきことが具体的に見えて、案ずるより産むが易しということを感じました。

安藤:職場での席も替わったのですか。

小川:一度は変わりましたが、何となく落ちつかず今は元の形に戻りました。また、朝礼の時に大きく声を出したりする場面もあるのですが、私は元々声が小さいので、頑張って大きな声を出そうとすると裏返ってしまったりして(笑)。チームのメンバーは、年上の男性職員が5人ですので、外部の方がお越しになった時に、驚かれることもあります。「え、この人が課長ですか?」と(笑)。自分の中でもまだ違和感があります。が、できることから始めていこうと思っています。

<イラスト:東京新聞>

安藤:「イクボス10か条」というのがあるのですが、ご自身としてはこの条文と照らし合わせて、いかがですか?

小川:「情報共有」という点で、まだ課題があります。上の世代の男性職員は、家庭の事情をあまり話したがらないんですよね。自分で発信していただけたら、チーム全員で仕事の分担がしやすいのですが、家庭の事情などを伏せた状態ですと、それがとても難しいんですよね。

安藤:いろいろ抱えていても相談出来ない男性は多いですね。

小川:そういう場合、どうしたら良いんですか?

安藤:普通に聞いてもうまくいかないこともありますね。以前ロールモデルインタビューで出てくれた会社のケースでは、「おやつタイム」を設けてみんなで話し合う時間を持って、業務としてその時間を作り、上司が積極的に声をかけて話を聞くようになったことで情報共有がうまくいき始めた、というケースがありました(第2回インタビューご参照)。朝礼とかではなくて、ゆるい時間帯にやったのが功を奏した事例でした。あと、スケジュール管理はどのようにされていますか?スケジューラーを使っていますか?

小川:はい、社内LANがあってそこで共有するようにしていたのですが、なかなか浸透せず、今は朝礼で全員がスケジュールを口頭で言うようにして、そこでお互いにスケジュールを控えておいて、人員が手薄になりそうな時にカバーするようにしたりと、アナログ的手法でやっています。最初は「ルーティンワークします。」というひと言で報告が終わったりすることも多く、そこの内容を細かく知りたいのに・・・という場面も多くありました。そこで、私が自分から、スケジュールの内容を細かく言っていくことで、だんだんメンバーも、内容を言ってくれるようになってきました。

安藤:小川さんもお子さんがいらっしゃいますが、プライベートの行事や予定について朝礼で言いますか?

小川:伝えます。なるべく早めに「この日は学校行事があるので、どうしても出勤が出来ないんです」など、根回し的に言うようにしています。自分から発信すると、聞いている人が「実はこの日は実家の用事で」など言い出しやすいようになってくるんです。

安藤:部下の男性の方々も、家ではお父さんだったりしますよね。

小川:家のことを話している時は、仕事の時と表情が違いますね。親近感がわきます。また異動してすぐの頃は、私自身もすごく意気込んでいて、肩に力が入ってしまっていたので、からまわっていた時期があったと思うんです。

安藤:初めての課長では仕方が無いですよね。

小川:変に気負いしていた時期に、上司から「ゆっくり行こうや」と声をかけられたりしました。

安藤:それは良い上司ですね(笑)。タイミングが良かった。野球で投げ急いでいるピッチャーに監督が出てきてひと声かけるような。

小川:そのひと言は響きました・・・からまわっていることに気付いて、ものすごく恥ずかしくなりました。

安藤:それを経験して、またボスとして成長していけば良いですからね。ご自身は、定時で帰れていますか?

小川:今は保育所開所の準備で忙しいですが、だいたい定時の17時30分から18時くらいまでの間で帰るようにしています。自分が帰らないと、みんなも帰りにくいと思いますので、今後は、「長時間だけは評価せず、工夫して効率を上げているところを評価する」という風に変えて行こうかと思っています。

安藤:そういうアクションが大事ですね。

小川:私が入職したころと比べて、職員数は約100人増えているのですが、総務の人員はそんなに増えていないのです。ということは、今までと同じやり方では仕事がまわって行かないのです。今年度の下半期は、その改善に本腰を入れて取り組みたいと思っています。

安藤:かつてのやり方が良かった時代もあったと思いますが、そのやり方のまま仕事量が増えると、徒に残業時間が増えてしまう人もいると思いますので、そこはボスが工夫をして、みんなが健康的にちゃんと働けるようにしていくことが大切になってきますね。

小川:本当に、健康で仕事をするのがとても大切です。無茶しすぎて体調を崩してはいけませんね。

安藤:部下の健康管理も、上司の大切な仕事ですね。僕も以前部下がいた時に、「無駄な残業は評価に響くよ」と言っていました。上司が言ってくれないと、仕事のやり方を変えられず、自分で残業を減らせない部下というのは多いですからね。

小川:ずるずる居残る中で雑談が出てきたりすると、今度は「10分でも早く帰りたい!」と必死で仕事をしている人にとっては集中を妨げるものになってしまいます。どちらが効率が良いかというと、やはりだらだら残らず、高い生産性で仕事を片付けて定時で帰ることなんですよね。

でも、効率ばかりを重視しすぎると職場がギスギスしますので、バランスを見ながら改善を進めて行きたいです。主任の頃は、本当に楽しく仕事ができていたのですが、今はまだ慣れていませんので、出来るまでは必死にやってみようと思っています。でも、休日はヨガに行ったりアロマテラピーの勉強に行ったりしています。

安藤:いいですね。リフレッシュは大事。休日はエネルギーを蓄える日です。家にいても仕事のことしか考えられない人は、だんだん疲弊します。「休む」ということは「インプット」であるという感覚を日本人はもっと持つべきです。育児休業も「休む」=「怠けてる」「遊んでる」というイメージを持つ人がまだまだ多いのですが、その時間は「親になるトレーニングをしている」「親子・家族の関係をクリエイトしている」という感覚を、ボス達がもっと持たなければいけません。

小川:ワークライフバランスを取り入れた初期の頃、残業をしない方向でと発信していたら、「自分は年俸制だから、いくら残業をしても会社から残業手当が出るわけではない」という意見が出たことがありました。そこで私が「光熱費が発生しています」と言ったら、場が凍り付いてしまって(笑)。私も言い方が悪かったかもしれませんが・・・最近は言い方を工夫するようにしています(笑)。

今後のビジョンについて

安藤:今後のビジョンはいかがですか。

小川:まずは自分の部署からなんですが、ひとりひとりが「ここで働いているのが楽しい」と思ってもらえるような職場にしていきたいと思っています。でも、ただの仲良しチームという感じではなく、きちんと成果を出して行ける組織にしていかなければいけないとも考えています。特に総務は、数字として目に見えるということが少なかったのですが、それでも全く数字が関係ないというわけではないんですよね、そこでかかっている経費をダウンさせたり、自分たち自身のパフォーマンス上げたりとか。大変だなと思う一方で、やりがいがあるな、と感じています。

安藤:ボス自身がそういう風に思える、言えるというのはとても大事ですよ。部下がそれを見て、モチベーションが上がってきますから。

小川:安藤さんのように、ゆとりで言えるようになりたいですね(笑)。まだまだ新米、ひよっこで、体力も能力もまだまだですので、そこをクリアにして「みんな楽しそうで良かった」と言えるようになりたいです。

安藤:ボスですから結果を出さなければならないし、そこで「サラリーマン」をやらずにクリエイティブに楽しむというのが大事ですよね。あとは、何かの縁で一緒に働いているわけだから、同じ職場の人たちの幸せも達成してほしいなとは思いますね。長い人生で見たら子育てもそうだけれど、いつも笑顔というわけにはいかなくても一緒にいる限られた時間の中でお互いを高めあって成長して行けたらと思う。パートナーシップだと思うんですよね、夫婦だけじゃなくて上司と部下も。会社の中でもお互いの生き方を大事にしてあげるというのは大切なことです。

小川:これからは育児と介護が重なって大変な職員も出てくると思うんです。今のうちに業務を圧縮して、10の力ではなく8の力で仕事を回して行けるようになれたら、不測の事態が出てきてもみんなでなんとかカバーして行けますよね。

安藤:その感覚、大事ですよ。自分もそういう風にした方が良いです。いつもフルでやっていると仕事がたまってきて、優先順位を間違えたりしますから。僕も若い頃はそうでした。

小川:午前中と午後の仕事の配分は、どうなさっているんですか?

安藤:かなりぎゅっと濃縮して仕事するようにしています。人間、集中するとその分疲れますからね。朝シャッターを開けて、仕事が終わったらシャッターを閉めるイメージです。昔は書店をやっていたので、その時に身に付いた感覚ですね。24時間シャッター開けっ放しは健康的ではない。メリハリを付けて仕事することが大事ですね。ところで昇進が決まった時のご主人の反応はいかがでした?

小川:反応は普通でした、「あ、そうなんだ。倒れないように、自分を追い込まないように」と言われました。でもそれが本当にありがたかったです、大喜びするでもなく反対するでもなく。そこから、目に見えないサポートがとても増えました。私自身、3月から6月くらいまで今よりもいっぱいいっぱいになっていたのですが、私が帰宅するとご飯を作っていてくれたり、3月から洗濯は夫の方がやってくれています。家事分担を10で分けるとすると、間違いなく向こうが8やってくれています(笑)。

安藤:今は移行期だから(笑)。家族がそうやってサポートしてくれると、モチベーション上がりますよね。「これだけやってくれてるし、早く帰ろう!」とかね。お子さんはいかがですか?

小川:私が帰宅してそのままソファーで寝入ってしまっている姿を何度か見ているからか、タオルをかけてくれたりします。先日は、疲れて寝てしまった私の目の前に、ヤクルトを置いておいてくれたんです(笑)。

安藤:ヤクルトかあ(笑)。

小川:以前、私が栄養ドリンクを飲んでいるのを娘が見て「私も飲みたい!」と言われた時に、「これはまだダメ!あなたの【元気が出る魔法のお薬】はこっち」と、ヤクルトを飲ませたんです(笑)。それからずっと、「元気が出る魔法のお薬」だと(笑)。

安藤:なるほど、その魔法は元気が出ますね(笑)。公私ともに充実の小川さん。こういう素敵な女性ボスがいるんだということが、若い女性社員の励みになりますね。

小川:逆に、「こんな私でもなれますので、皆さんぜひチャレンジしてください!」と言いたいです(笑)。

安藤:最後のひと言、バッチリ決まった(笑)。ありがとうございました!

小川:ありがとうございました。

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インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン代表)
(筆:笹川直子)