[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第1回】仲木威雄さん(さわかみ投信株式会社 取締役)

[公開日] [最終更新日]2018/03/07


イクボス・ロールモデルインタビュー第1回は、さわかみ投信の仲木ボスが登場。

かつては仕事一筋・ワーカホリックな働き方だったご自身がどうしてワークライフバランスを重視するようになったのか?また、社内でインパクトのある「出産祝い金制度」を作り、女性の育休復帰や、男性も育休を取りやすくしたマネジメントとその意図について、本社でお話をうかがいました。


<仲木威雄さんプロフィール>
1977年生まれ。三菱信託銀行からプルデンシャル生命を経て、2004年9月よりさわかみ投信株式会社入社。妻、長女(2007年うまれ)、次女(2009年うまれ)の4人家族。次女が1歳になる1ヶ月前(2010年1月)に、社内で初めて育児休暇を取得(1ヶ月間)。FJ会員。

「残メシ」に優越感を覚える体育会系ワーカホリック社員が育休を取得

安藤:独身時代とか若い頃は、どんな働き方でしたか?

仲木:典型的な体育会系のワーカホリック(仕事中毒)でしたね。子どもが生まれる迄は、「体力バカ」「仕事バカ」でした。「夜遅くまで仕事をして当たり前」「夜遅くまで飲んでも早朝出社する体力と気合いがあって当たり前」「土日に出社も当たり前。振替休日なんてあり得ない」。まあ、典型的なリゲイン・サラリーマンでした。残業が当たり前で管理職は夜10時から会議するということがこと普通になっていました。

土日もほとんど仕事で埋まり出張で全国を飛び回っていました。それこそ「休日って何?」って思っていました。ワーク・ライフ・バランスという考え方は私の中に微塵もありませんでした。

長時間労働がデフォルト状態で、「残業して夜の飯を食う」=「『残メシ』する」ことに、妙な優越感があったりしていたんです。「俺、仕事してるわ~」という感じのね。

安藤:結婚では変わらなかった?新婚なのに大丈夫だったの?

仲木:全く変わりませんでした。いわゆる新婚生活ってほとんど無かったような気がします。大丈夫とかいうよりも、家庭より仕事が完全優先だったので気になりませんでした。妻は「完全に諦めていた」と言っています。「やるといったら聞かない人だから」と。

安藤:子どもが生まれるとそうもいかなくなるよね。家事などはやってなかったの?

仲木:子どもが生まれても全く変わりませんでした。家事の手伝いもやっていないに等しいです。いえ、全くやっていなかったです。新婚なのに、仕事や飲み会でほとんど家に居なかったのです。「男は仕事、女は家事・育児」と旧態依然の価値観にガチガチに縛られていました。

子どもはもともと好きなので、妻の妊娠が分かったときは飛び上がって喜びましたし、妻のお腹をさすりながら「俺ら夫婦を選んでくれてありがとう」とお腹の子に話しかけ、「この子が生まれたら、めちゃくちゃ可愛がる」と親バカ&パパ宣言を妻にしていたのですが・・・。

いざ長女が生まれてみると、ほんまにめちゃくちゃ可愛いのですが、どうしても目の前の仕事を優先してしまい、妻に任せっぱなしだったのです。

特に長女が生まれた2007年から次女が生まれた2009年頃ごろは、会社としても本当に大事な時期でした。こういうタイミングは重なるものですね。責任ある立場でもあったので、強烈な使命感に駆られて、さらに仕事に没頭していきました。平日は娘たちの寝顔を見るだけ、土日も朝に「おはよう。行ってきます」との会話だけという状態が続いていました。

すると、長女が3歳になったころ、だんだん関係がおかしくなってきたんです。
「パパ、となりに寝ちゃイヤ」「一緒にお風呂に入るのイヤ」・・・、初めは笑っていたんですが、何回も続いたので、「これはおかしい」と気付いたんです。

FJの仲間からもそういう例を聞いていたので、「これか」と分かりました。このまま行くと、この時期にしか作れない信頼関係を作れないぞと。

それで、次女がちょうど1歳になる前だったので、社長(現・会長)に「育児休暇、1ヵ月取ります」と伝えました。

安藤:社長の反応はどうだった?

仲木:社長は創業者でもあり猛烈仕事人間なので、自分の家族よりもお客様という考えですが、社員の家族のことは本当に気遣ってくれます。当時はそんな素振りは見せませんでしたが、育児休暇の取得を伝えたときは、即答で「取れ、取れ」と後押ししてくれました。

当時、私の「仕事の質」は未熟でしたが、「仕事の量」だけは圧倒的だったこともあるとは思います。そもそも、育児休暇の制度自体はあったのですが、誰も取得した実績がなかったですし、話題にも上がっていませんでした。そこで数人の女性社員に育休の取得について相談したら、「仲木さんが取得しないと、他に誰もとれない」「絶対取るべき」と言ってくれたことも心強かったです。

それで自分でも、「猛烈に仕事をしていて、育休を取りそうにない人間が率先して取得することで、後に続く社員も出てくるかもしれない」と思いました。

実際これまでに、5人の男性社員が育休を取得しています。育休を取りやすい環境づくりをつくるためにいろいろ仕掛けてきました。今でも新米パパには「子どもは元気?」「奥さんの体調は?」と気軽に話しかけたり、社員全員に育児休暇の魅力を伝えたりもしています。


安藤:育休とってみて、親子関係は変わった?

仲木:劇的に改善しました。長女は、たった3日で、「お父さんとお風呂に入る」「お父さんと一緒に寝る」と言ってきてくれて。もう、泣きそうでしたよ。

1ヶ月の育休とはいえ、実際には、仕事の都合で、半分ほどは出社していたのですが、娘たちが起きてから寝るまでの一日中一緒にいることができたことは大きいです。

子どもとの時間は、「質ではない、量が大事」だと痛感しました。そもそも子育ては期間限定ですからね。


安藤:奥さんの反応は?

仲木:長女との関係については、妻も心配していましたので「良かったね」と言ってくれました。また、妻や娘たちの生活リズムを知ることができたことも収穫でした。

それまでは家事も全く手伝わなかったですし、家の中にどこに何があるかも全く把握していなかったのですが、妻の家事のやり方等が分かった事で、育休が終わってからも時間を見つけて効率的に手伝いが出来るよ
うになりました。

妻は私が家事をすることについても「完全に諦めていた」ようでしたので、変化には驚いていいます。妻とのコミュニケーションも改善されていきました。FJのパパたちに感謝感謝です。


「出産祝い金100万円」を提案、実現

安藤:自分が家族を持ってみて、育休とか制度を整えようと思った?

仲木:今の会社に転職した頃、先輩社員たちが、「二人目が作れない」と言っているのを聞いたことがありました。それで、その理由を聞いてみたら、経済的につらいと。自分は新婚でしたが、長時間労働や少子化という時流に、それでは良くないと思い、社員の全体会議の場で、出産祝い金のしくみを作る事を提案しました。2006年頃でした。

安藤:社員みんなの反応は?

仲木:「おー」と、どよめきましたね。1人の子どもにつき100万円です。社長も即決で同意してくれました。今迄に26人の社員、35人の子どもに支給されました(※2014年4月現在)。実は、10人目の子どもが産まれたら、1人1000万円です。まだ実績はありませんが(笑)。

女性社員からは、「この会社にもっと早く入社していれば、私ももう一人産んだのに~」という声も出ています。この制度が、子どもが欲しい社員の後押しになっていることは事実だと思います。

当事者意識のあるイクボス

安藤:「イクボス」の定義の中に、「部下の人生を考えてあげるとともに、会社の業績も上げていく」というのがあるんだけど。

仲木:多様な働き方を応援しています。部下にはいつも、まず「なりたい自分」や「ライフプラン」を描き「自分軸」を定めるように声をかけています。

上司の顔色をうかがわず、自分らしく生きる、そして自分本来の意見を言えることの方が大事ですし、そういう社員の方がアウトプットの中身もオリジナリティーに溢れて面白いことが多いです。

社員一人一人の人生を大切にするためにも、業務時間終了以降の会議はやりません。もちろん、自主参加タイプの会は催します。社内の飲み会も劇的に減らしました。

また、権限も現場に相当委譲しました。会議や報告の時間を減らしたかったのも一因です。そして、部下には、会社の外のコミュニティに積極的に関わることを勧めています。今は時流の変化が早い時代になってきていて、社内で仕事をしているだけでは世の中の流れを肌で感じることが出来ません。

自分もFJや幼稚園のパパ会、地域活動に参加したり、マンションの「おっさん会」を開いたりすることで、会社の外の人との交流が仕事にも良い影響を与えていると実感しています。

これらの活動は「やらなければならない」というような義務感というより、「楽しい、面白い、自分らしい」と感じるからやっています。


安藤:育児が仕事に影響を与えていると感じる事は?

仲木:娘たちや妻としっかり向き合う事によって、価値観や生き方、働き方が完全に切り変わりました。OSが切り替わるってやつです。自然体で「自分らしさ」や「自分はどうあるべきか」についてゼロベースで考える「軸」を再構築することができたことが大きいです。

同様に、部下の個性を認めて、活かすことが会社の成長に直結すると確信しました。家庭でも職場でも、それぞれの人が、みんな個性をのびのびと発揮して、明るく、なりたい自分になれる環境を整えるような、「太陽」のような存在になりたいと思っています。

安藤:子育てを経た「当事者意識」を持つイクボスだから持てる意識かもしれないね。

仲木:育児は「家庭内留学」とも言われますから、子どもがいる部下には積極的に育休をとって育児を体験してほしいし、子どもがいない部下には外へ目を向けるように促しています。そうすることで、会社全体に自然とダイバーシティが実現できると思っています。

正直言って、自分の子どもが生まれる前であれば、部下が育休を取得したいと相談に来られたら、頭では理解出来ても、心の底から素直に喜べなかったと思います、仕事の人員配分などのことを先に考えてしまって。
自分が実際に体験した事で、今では「素晴らし!!どんどん育休をとれ!」と言えるようになりました。

これから目指したいイクボス像とは

安藤:「イクボス10か条」というのがあるんだけど、この中で当てはまる、当てはまらないというのはある?

<イラスト:東京新聞>

仲木:6番の、仕事のシステムのモバイルやクラウド化の導入による効率化、というところが、会社全体としてこれからの課題ですね。

安藤:他はだいたい出来ている感じかな。

仲木:会議を減らしたり、意思決定のスピード化などは力を入れてきいました。また、育休を取得した社員にそのことをみんなの前でシェアしてもらったり、「育休のあとは介護休暇っていうのもある」なんていう話をみんなの前で軽くしたりする事で、部下から上司に「実は介護のことも考えていて・・・」などと話し出しやすい雰囲気を作ったりしています。コミュニケーションをとりやすい雰囲気作りも大切ですよね。

安藤:「自分色に染めたい」ボスじゃなくてね。

仲木:そうそう、世の中にはまだまだ自分色に染めたがるボスがいるようですね。自分に自信がないのでしょう。そんなボスに部下は上辺では従っていても、心では慕いません。そいう会社の業績は伸び悩むでしょう。
私の理想は、日本代表です。具体的にいえばワールドベースボールで世界一になった王監督が率いていた侍JAPANですね。

各人のプロ意識が高く、己の武器があり、それぞれ野武士のような強烈な個性がある。が、いざという時には団結できる柔軟性かつ多様性にとんだチーム。「言いたい事を気軽に言いあえて、いろんな個性を認めあえる」チームは最高です。そこから生まれる信頼感は、会社全体にとても良い影響を及ぼします。

父親としては、お母さんや、娘など、みんながいるから輝ける家族を作って行きたいし、会社では、みんなが自分らしい生き方を思い描いて実現していける、それぞれがもっと人生を楽しんで、お互いに良い影響を与えあう、そんな信頼と刺激のあるチームを作っていきたいんです。

安藤:まさに父親としての役割が、ボスとしての役割と重なるところだね。

仲木:本当にそうですね。父親として自分の役割を見直すことで、上司としての働き方も見直すことができました。今後、社会がどんなに変化していこうとも、自分の軸をしっかり持って、ワークとライフをメリハリつけて自分らしく楽しんで生きていけるようになってほしいのです。

安藤:これからの課題は?

仲木:課題というよりも、気にかけていることは、育休中の女性社員の職場復帰です。今までは、出産と育児で休みを取得して、そのまま退職してしまうパターンばかりだったのです。彼女が職場復帰に至るまで、そして復帰後のマネジメントにしっかりと心配りしたいです。

安藤:FJのイクボス講座では、そのあたりのことも取り上げて行く予定です。

仲木:今までにない事例なので、しっかりとマネジメントしていきたいです。一人一人の社員が、もっと輝いて、自分らしく生きていけるように、自分もまだまだ学んでいきたいですね。笑っている父親が増えて、家庭や、会社や社会が明るくなれば最高です。また、イクボスが増えて、輝く社員が増えて、会社の業績もあがり、日本に活気がでてくればこれまた最高です。


仲木さん、貴重なお話をありがとうございました。

聞き手:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
筆:笹川直子