[結果発表] 第二回イクボス充実度アンケート調査

【第5回】金柿秀幸さん(絵本ナビ 代表取締役社長)

[公開日] [最終更新日]2018/03/07


イクボス・ロールモデルインタビュー第5回は株式会社絵本ナビの金柿秀幸さんが登場。

「子どもに絵本を選ぶための情報を集めた参加型絵本紹介サイト」というコンセプトで、2002年4月にオープンしたインターネットの絵本情報・通販サイト絵本ナビを運営する。スタッフ32名中、女性が約7割。男性も3名が育休を取得。会社を立ち上げた経緯や、メンバーへの想いなど、東京にある本社でお話をうかがった。

  
<金柿秀幸さんプロフィール>
45歳。大手シンクタンクにて、システムエンジニアとして民間企業の業務改革と情報システム構築を推進。その後、総合企画部調査役として経営企画に従事。2001年、愛娘の誕生にあわせて退職。約半年間、子育てに専念した後、株式会社絵本ナビを設立し、代表取締役社長に就任。2002年、絵本選びが100倍楽しくなるサイト『絵本ナビ』をオープン。2003年、「パパ’s絵本プロジェクト」を結成。 雑誌など各メディアにて絵本紹介、講演など多数。NPO法人ファザーリング・ジャパン初代理事。編書に『幸せの絵本』シリーズ、『大人のための絵本ガイド』(以上、SBクリエイティブ)、共著に『絵本であそぼ!』(小学館)がある。

きっかけは社長自身の考え方の変革

安藤:もともとはどんな働き方だったんですか?

金柿:独立する前は銀行系のシンクタンクでSEとして働いていたんです。仕事は山ほどあるから、毎晩夜中まで働くという職場でした。20代の頃は本当に限界に挑戦している働き方でしたね。夜中の2時頃まで働くことも普通でした。

結婚してからも働き方は変わらず、逆に以前よりも仕事に打ち込むようになりました。結婚して妻がいるから、余計にオトコとして外で仕事をがんばれるという考え方からです。父親が企業戦士でしたから、そのイメージも刷り込まれていたのだと思います。

安藤:それが変わったのはいつからですか?

金柿:父が脳梗塞で倒れたときです。でも最初は、「なぜ、こんなに忙しい時期に倒れるんだ」と腹が立ったというのが本音でしたね。で、4日後になってやっと会いに行き、一時的に半身麻痺になっていた父を見て、「自分はなんて恥ずべき行動を取っていたのだろう」と思いました。人として最低だなと。そこから考え方が変わりました。

その後、妻が妊娠した知らせを聞いて、そのときに、将来のわが家の姿が頭に浮かんだんですよ。「ただいまー」って帰っても、暗い家の中。家族にイライラして、「誰のおかげで飯を食えてるんだ!」なんていう家庭のイメージ。同じ職場の先輩は、子どもに「今度いつ来るの?」って言われたよなんて、誇らしげに語っていて、このままだと自分もそうなってしまうと思いました。ちょうど30代に入ってこれからどう生きていこうかと考え始めた時期。仕事だけして会社で偉くなっても、それでは自分も家族も幸せではない、と気付いたんです。


安藤:それで会社を辞めて、絵本ナビを立ち上げたんですか?

金柿:会社を辞めて、子育てしながら、子どもとのコミュニケーションツールだった絵本に市場があるのではないかと、絵本ナビを立ち上げました。でも事業が軌道に乗るまではやっぱり仕事中心になってしまって、オフィスに泊まり込みする日もある毎日……。

娘が小学生になる頃、ワークライフバランスの講座に出る機会があり、「日本の労働生産性は先進国中最下位」というデータを見て愕然としたんです。仕事で家庭を犠牲にしなくてはならないのは、俺達の仕事のやり方が下手だからなんだと気付いて、悔しくて悔しくて……。

ハードワークだけど、子どものために休める会社

安藤:それで今の会社のビジョンができたんですね。

金柿:「ハードワーク。でも、子どものためならいつでも休める会社」というビジョンを立て、社長である自ら実践することにしました。

社内インフラを整備して、社内SNSとグループウェアで情報を共有しています。北海道にも従業員がいますが会議はオンライン会議ツールで行います。会社にいないと話が進まないということにならないように、会議も極力減らしています。

議論も社内SNSで交換するため、会議の時間を設定することも少なくなり、会議をする場合でも15分から30分程度にとどめています。情報共有を進めているから、子どもの行事はもちろん、急な病気でも気兼ねなく休める。ただし、仕事に向かうときは、最大限のパフォーマンスを発揮できるよう、仕事の権限や責任も与えています。


安藤:家族と夕食を一緒にできてますか?

金柿:娘が小学生の間は、週5日は家で食事すると決めて実践していました。今は中学生になったのでまた仕事の比率を上げています。娘に「パパがいなくて寂しい」と言われるのも期間限定ですから。率先して帰るようにしています。


安藤:メディア編集部の竹原さんは、働いていてどうですか?

竹原:前の会社では、会社に来ないと仕事が始まらなかったから、子どもが病気だと両親に休んでもらったり、自分は仕事に出ていても「大丈夫かな」って気になりながら仕事をしていました。

こちらに入社したのは3人目の末っ子が4カ月の時。まだ保育園も決まっていなかったんです。上の子が熱を出したときも、イヤな顔をされず、在宅でも働ける環境を整えてもらってすごく助かりました。「お子さんの熱が下がるまでは、仕事しなくて良いです」なんて言ってくれる会社にびっくりです。でもだからこそ、子どもが治ったらまた精一杯働こうというスイッチが入ります。

安藤:法人営業部の田中さんはどうですか?

田中:前の会社は育休などの制度は使いやすかったんですが、ママキャラになってしまうんですよ。いわゆるマミートラックですね。プロジェクトなどに参加したくても、バリバリ仕事することを期待されているわけではないので、気が引けてしまう。その結果、徐々にやる気も下がっていってしまう、という感じでした。

今までは、子育てしながらなので、仕事の仕方を自分も周りも制限してきたように思うし、自分自身期待されないのは当たり前と思っていました。でもこの会社は、社員として1人前に見てくれるのがうれしいです。

金柿:我が社の場合は、みんなにバリバリ仕事することを期待していますからね(笑)。
一般的な職場では、毎晩深夜まで働く企業戦士になるか、時短で働くアシスタントかの2コースしかないのですが、「決まった時間内で徹底的に仕事する」という活躍の場があることで、優秀な女性もどんどん入社してきてくれています。

専門性はありながら、チームでカバーできる

金柿:子どもがいるいないに関わらず、担当者が急に休まざるを得ない状況はありますよね。それが起きることを前提に、情報共有、仕事の標準化、前倒しの進行などを意識的に進めています。各スタッフは専門性の高い仕事をしているのですが、その人がいないとダメという状況をできるだけ作らないようにしています。

竹原:私の所属するメディア編集部では、仕事の状況だけでなく、子どもの体調など家庭の状況も常に共有できていて、何かあればすぐにサポートしあえる関係作りができています。
夫とも仕事の話が対等にできるようになってうれしいです。「私が今このプロジェクトを担当しているから、この週は子どもが具合悪くなったらパパが休んでね」とか。家族としても、両立の意識が持てるようになりました。
子どもと絵本を読む時間も増えて、そこでひらめいたことが仕事につながることもあります。

田中:週末に子どもと出かけることを隠さずにいられることが嬉しいです。子育てに理解がない会社だと、週末に出かけるから子どもが体調崩すのではと思われる方もいらっしゃるので……。

竹原:平日の保護者会とかも、会社のスケジュールに記入できますからね。子どもの体調が悪くて休むことはできても、保護者会や学校行事で休むのは普通なら気が引けるものですが、絵本ナビではそれが当たり前になっているんです。理解と信頼関係しっかりできていると感じます。

金柿:こういったやり方は、「強い組織を作って高い成果を出し続ける」ための戦略なんです。「会社への忠誠を誓う男性中心の組織で長時間労働を前提に事業を行う」というのもひとつのやり方ですが、我が社は違うやり方で強い組織を作る覚悟をしています。仕事だから、納期やサービスの質を追求するのは当たり前のことですが、やり方はひとつじゃないと思います。子育てを通じた活き活きとした体験や視点をもとに、新しい発想やイノベーションが生まれていて、それが強みになっています。

安藤:バランスの取れた組織が必要だよね。それぞれが自主的に動けて、みんなが生きる組織。それが戦略的にも強い組織になるんじゃないのかな。

<イラスト/東京新聞>

安藤:「イクボス10か条」にあてはめてみると、自分はどうだと思いますか?

金柿:ほとんどできていると思います。

安藤:すばらしい。夫婦でもパートナーシップが大切だけど、ボスと従業員も信頼関係が大事だよね。今日はありがとうございました!


インタビュー:安藤哲也(ファザーリング・ジャパン ファウンダー)
(筆:高祖常子)